第8話 怪物ということについて

 ベルノルトがそう云うと、暫くの間沈黙が流れた。


 俺も言葉を選んでいた。喋っていいのかどうか……俺はタイミングを見計らっていた。


 しかし、ベルノルトの方は特にどうしたこともないというような表情のままである。


「……先に聞いておきたいんだが、君から見て、勇者ミサキはどんな存在なんだい?」


 と、いきなりベルノルトが俺の方を見てそう聞いてきた。俺は一瞬何を言われたのかわからなかったが、すぐに我に返る。


「え……、あー……。そ、そうですね。とても頼りになる仲間、ですかね」


「……フフッ。そうだよね。君にとっては、頼りになる仲間、だよね」


 俺がベルノルトが期待していた通りの答えを言ったようで、彼はニンマリと微笑んでいた。


「ちょっと、これを見てくれ」


 そう言って、ベルノルトが指示すると、背後のドナツの軍人達が慌ただしく動き始める。


 そして、あっという間に白い垂れ幕と、なにかの機械をセットしてしまった。


「これは、映写機だ。ジャフテやイローナにはないと思うが……簡単に言ってしまえば、この白い垂れ幕に映像を映し出す機械だ」


「映像……?」


 俺が思わず困惑した反応をすると、ベルノルトは嬉しそうに笑顔を見せる。


「まぁ、見てもらったほうが早いだろう。やってくれ」


 ベルノルトがそう云うと、部屋が暗くなる。そして、ほどなくして機械が作動した。


 作動した機械からは明るい光が放たれる。その光は白い垂れ幕の方に向かっていき、垂れ幕には写真のようなものが浮かんできた。


 しかも、その写真は動いている。俺は思わず見入ってしまった。


「これは、少し前……魔王討伐パーティがドナツ近郊に立ち寄った時の映像だ」


 ベルノルトにそう言われて、たしかに見覚えのある光景だった。大きな黒いドラゴンが暴れている。この光景は……。


「見てくれればわかるように、パーティ一行はブラックドラゴンと戦っている。ブラックドラゴンといえば、我がドナツの屈強な兵士でも、おそらく、一個旅団は必要な相手だ」


 映像を見ていると、大きな光が迸り、ブラックドラゴンを切り裂く。程なくして、ブラックドラゴンは動かなくなった。映像はそこで途切れる。


「……そんなブラックドラゴンをあっという間に倒してしまった。さて、確認しよう。クロウ君。この時、ブラックドラゴンに最後の一撃を放ったのは、君か?」


 俺はなぜか怒られているような気分になってしまった。ゆっくりと言葉を口から吐き出す。


「……いえ。俺じゃないです」


「では、誰だね?」


「……ミサキです」


 俺がそう云うと満足したような表情をベルノルトは浮かべる。


「つまり……勇者ミサキは、屈強な兵士一個旅団に匹敵する怪物、というわけだ」


 怪物、というベルノルトの言葉に俺は反抗しようとしたが……できなかった。


 なぜか、俺の頭の中にその言葉が、強く反響していたのだった。

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