第6話 邂逅について

 会議の間の扉を開くと、さらに大きな部屋が広がっていた。


 部屋の真ん中には大きなテーブル……、そして、3つの豪華な作りの椅子が並んでいる。


「おや。君は……クロウ君かい?」


 背後からいきなり声がかけられて俺は思わずビクッと反応してしまう。


「いやぁ! 嬉しいなぁ! この世界を救った英雄と本当に会えるなんて!」


 振り返ると、メガネをかけた軍服姿の男性が笑顔を浮かべて俺に手を差し出していた。


 その軍服は……ダネスと同じものに見える。ということは――


「最初に会ったら言おうと思っていたんだよ。ありがとう! この世界を救ってくれて!」


「え、あ……え、えっと……」


 俺が戸惑っていると、男性は申し訳無さそうに狼狽する。


「すまない。つい感情が高ぶってしまってね。俺はベルノルトだ。一応、こんなんでもドナツ帝国の少佐をやらせてもらっていてね」


「あ、あぁ……あなたが……」


 俺は差し出された手を握りながら、思わずそう言ってしまう。


「ん? あぁ、そうか。中尉から俺の話を聞いていたのかな? ハハッ。恥ずかしいな」


 そう言って苦笑いをするベルノルト。


 本当にこの人に気をつけなければいけないのか? 俺にはとてもそうは思えなかった。


「お話の途中、すみません。私も自己紹介させていただけますか?」


 その声に、俺とベルノルトは同時に声をのした方を向く。そこには修道服を来た女性が立っていた。


 ニッコリと目を細めた笑顔を浮かべて、いかにも優しそうな雰囲気の女性だった。


「君は……?」


 ベルノルトがそう言うと、女性は深々と頭を下げる。


「私はフィーナ。イローナの国外業務担当の者です」


「あぁ。なるほど……。俺はベルノルト。そして、こちらが世界の救世主、大魔法使いのクロウだ」


 ベルノルトの紹介で俺は思わず恥ずかしくなってしまう。と、いきなりフィーナは俺の前に跪く。


「え……、ど、どうしたんですか?」


「あぁ……。アナタのおかげで世界を救われました……。神に祈ることしかできない私にも、どうかお礼を言わせて下さい」


「い、いや、俺は……、それに俺だけが世界を救ったわけじゃ……」


「それでも、お礼を言わせて下さい」


 そう言って今一度深々とフィーナは頭を下げた。俺は恥ずかしかったが……悪い気分ではなかった。


 それにしても、メリルの言うようにこのフィーナという人は……確かに、行動が全然読めない。


「な? 君には世界中の誰もが感謝しているんだ。もっと自信を持ちなよ」


 そう言って肩を叩いてくるベルノルト。俺もなんだかだんだんフワフワとした良い気持ちになってきてしまった。


「さて! 本当ならばこんな話し合いなんてない方がいいんだが……とりあえず席につこう。さぁ、英雄様も座ってくれ。まぁ、難しく考えないでくれ。これからするのも簡単な話で、あっという間に終わるからさ」


 そう軽い感じでいうベルノルト。フィーナも頭を小さく下げながら席につく。


 俺もそのまま自分の席についた。今までの雰囲気だと……それこそ、俺を英雄として崇め、話し合いなんて本当に必要ないと思わせるような雰囲気だった。


 だが……席についた瞬間、変わった。


 ベルノルトもフィーナも、優しい笑みを浮かべたままである。しかし……明確に分かる。


 彼らが俺をこの席上では……英雄とは見做していない。外交の素人だと認識していることが。


「さぁ……、始めようか」


 ベルノルトがそう言うと同時に、こうして、ユウシャ会談が開始されたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る