第3話 勇者の言葉について

 その日の朝。俺は城門までやってきていた。


 城門で俺はミサキを待っている。ミサキとはここ数日会っていない。


 最高戦力である勇者をどの国家が管理するかが決まるまではなるべく接触するべきではない、という判断からミサキは半ば幽閉状態でジャフテの城の一室にいたことになる。


 会っていないのは数日だというのに、なんだか長い間会っていないような気分になってきた。


「おーい!」


 聞き覚えのある声が聞こえてくる。俺はそちらを見る。ミサキが手を振りながらこちらへ走ってきていた。


「ごめんね! ちょっと寝坊しちゃった!」


 申し訳無さそうに頭を下げる世界の救世主。俺は首を横にふる。


「いや、待ってないから大丈夫。なんか……久しぶりだな」


 俺がそう言うとミサキは目を丸くする。それから困ったような笑みを浮かべる。


「も~。そこまで久しぶりじゃないでしょ。それとも、ずっと今まで一緒だったから久しぶりに感じるのかな?」


 無邪気な様子でそう言うミサキ。初めて召喚したときからも思ったが……少年というよりもやはり女の子にしか見えない。


 それについては何度も本人に確認したが、その度に結局有耶無耶にされてきた。


 俺としてもそれ以上詮索するのもどうかと思い、結局、世界が平和になった後でも、俺は未だにミサキが少年なのか、少女なのか自信が持てない。


 ……いや、今はそんなことを考えている場合ではない。ミサキが男でも女でもこの際どうでもいいのだ。


 問題なのはミサキという一個人によってこの世界が救われたこと……ミサキがこの世界の救世主であることが問題なのだ。


「ミサキ。その……これからどうなるか、不安じゃないのか?」


 俺がそう尋ねると、ミサキは先程と同じように目を丸くした後で、ニッコリと微笑む。


「大丈夫だよ。僕は勇者だよ? 何があっても、僕がどうにかするからさ」


 魔王討伐の旅で何度も聞いた言葉だ。その度に俺も、仲間たちも勇気づけられた。


 しかし、今の俺にとっては、それは……この世界がミサキをこれからどう扱おうとしているのかまるで知らない……呑気な言葉に思えてしまった。


 それが……俺にとってはとても悲しかった。


「……あぁ。そうだな。大丈夫だよな」


「うん! それに、クロウのことも頼りにしているからね!」


 ミサキにそう言われて俺は今一度決意を固める。そうだ。今度は俺が……どうにかしなければならないのだ。


「……わかった。じゃあ、行こうか」


 ミサキが小さく頷く。俺は転移魔法を発動する。


 辺り一面光に包まれ……そのまま俺とミサキはユウシャ会談が行われるドナツ帝国へと転移するのだった。

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