第2話 全てが自分に懸かっていることについて

 夜。俺は城の中の自室でずっと本を読んでいた。


 この世界の歴史について書かれた書籍ばかり読み耽っている。こんなことしても、余り意味がないとは思うが……これくらいはしないと落ち着かなかった。


 コンコン、という扉を叩く音で俺は我に返る。


「入るぞ」


 そう言って、部屋に入ってきたのは、ひげを蓄えた老人だった。


「……国王様」


 俺がそう言うと老人……国王は少し悲しそうな顔で俺を見る。俺は思わず視線をそらしてしまった。


「周りに人がいない時くらい、父と呼んでほしいものだな」


「あ、いえ……でも、俺は……」


 そう言って、国王は近くの椅子に腰をおろした。


 国王、ジャフテ5世。俺の……義理の父である。


 国王が義理の父というのはなんともおかしな話だが、一応、そういう事になっている。


「何を読んでいるんだ?」


「……歴史書です。この世界の」


「明日からの会談のために、か?」


 国王は俺の考えを見通していると言った感じでそう言った。俺は小さくうなずいた。


 国王はため息をつき、それから、申し訳無さそうな表情を浮かべる。


「世界を救った魔法使いに、魔王亡き後の世界の処理まで任せるというのは……なんとも申し訳ないな」


「……いえ。俺は……国王様に救っていただいた身ですので」


 国王は俺の言葉を聞くと、少し考え込んだ後で椅子から立ち上がる。


「この王国に命運は……お前にかかっている。なんでもお前に背負わせてしまって……申し訳ない」


 そう言って小さく頭を下げる国王。俺は慌ててそれを静止する。


「やめて下さい。一国の王がすることではありません」


「しかしだな……儂は自分が国王であることが情けない……全てをお前任せにしているだけではないか」


「……いいんです。俺が自分からやるって言い出したんです。勇者を転生召喚したのも、俺の提案でしたし……」


 俺がそう言うと国王は少し眼を細める。そして、悲しそうに視線を伏せた。


「……いっそのこと、勇者など召喚できない方が良かったのかもしれんな」


 それだけ言って国王は俺の部屋から出ていった。俺はしばらく立ち尽くしている。


 ……そんなことはない。勇者を……ミサキを召喚したのは正しいことだったのだ。


 魔王を倒したことも正しいことだった。間違っているのは――


「……この世界だ」


 俺はそう言ってから、国王と同じように小さくため息をつく。


 そんなことを言っても仕方がない。明日からの会談のためにそろそろ寝たほうがいい。


 魔王なき後の世界で、勇者という最高戦力を、どの国家が管理するかを決める会談……「ユウシャ会談」に備えるために。

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