ユウシャ会談

味噌わさび

第1話 平和になった世界について

「……では、ここでお別れかな」


 三方向へと分かれ道が伸びている。俺たち4人はそこで立ち止まった。


「はぁ~。ようやく辛気臭いアンタとお別れ出来ると想うと、すっきりするわね」


 そう言って、修道服姿の少女が俺に対して明らかな敵意を向ける。俺は苦笑いすることしかできなかった。


「転移魔法、使わなくていいのか?」


「結構。1人で歩いて帰れるし。何より、もう世界は平和になったんだから」


 修道服姿の少女はそう言う。


 そう。世界は平和になった。というより、俺たちが平和にしたのだ。


 魔王を倒して、世界は平和になった。


「まぁ、どうせ、そのうち会うことになると想うけど……。勇者様!」


 そう言って修道服の少女は急に態度を変えて、俺の隣に立っていた少年に近づいてくる。


 少年は驚いた様子だったが、曖昧に微笑んでいる。


「本当に、その根暗と一緒に行くんですかぁ?」


「あ、あはは……。うん。一応、最初に召喚されたのがジャフテ王国だから……」


「えぇ~。ウチと一緒にくれば絶対楽しいですよ~? かわいい女の子もたくさんいるのに~」


「あはは……。そのうち、行くからさ」


 勇者と呼ばれた少年にそう言われると、修道服の少女も流石に諦めたようだった。不満そうにしながらも、俺たちに背を向ける。


「じゃあね。まぁ……このパーティ、そこまで悪くなかったわよ。今度会う時は……まぁ、どうなるかわからないけど」


 そう言って修道服の少女は行ってしまった。俺たちはその後ろ姿をしばらく眺めている。


「私も、そろそろ行っていいか?」


 そう言ったのは、無表情な重厚な鎧を来た少女だった。


「あ、あぁ……。その……ダネスには世話になったね」


 俺がそう言うとダネスと呼ばれ鎧姿の少女は少し眼を丸くしていた。しかし、それから程なくして元の無表情に戻る。


「そうだな、クロウ。貴様は……もう少し鍛錬を積んだ方がいい」


「あ、あはは……そうだね」


 それから、ダネスは今度は勇者の方に顔を向ける。


「勇者様。本当に、ドナツにはいらっしゃっていただけませんか?」


「あ、あはは……。うん。ごめんね……」


 ダネスは残念そうにはしているが、既にわかっていたといった顔でそこまで落ち込んではいなかった。


「では、私もこれで。世話になったな」


 短くそう言って、ダネスも行ってしまった。


「……みんな、行っちゃったね」


 しばらくしてから勇者がそう言った。


「本当に……良かったのか?」


 俺がそう言うと、勇者は当然だという様子でうなずく。


「僕をこの世界に転生召喚したのはクロウじゃないか。だったら、ジャフテに戻るのが当然……でしょ?」


 ニッコリとそう笑う少年……勇者ミサキ。


 魔王を倒して世界を平和にした勇者……彼女を召喚したのも俺だ。


 俺はその時とても不安だった。


 これから……どうなってしまうのか、と。


 正確にはこの平和になった世界が……勇者を巡ってどうなるのか、と。


 そして、その不安は、程なくして現実のものとなって、俺、そして、パーティのメンバー、さらに勇者ミサキ……この世界を巻き込むことになるのであった。

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