第32話 カコバナ
《4章》
フレイヤ、別ジャンルの同業者にトラウマをほじくり返され大いに凹む。
タイムリミットが早まった俺は、慎重かつ大胆に逆転の一手を温めていた……
手始めに、俺はタイゼリアに乗り込んだ。
探し人(神)をすぐ見つけ、前回のあらすじをかいつまんで説明したところ。
「詳しい話は、フレイヤに聞くべきじゃん? うちが全部バラすのは、何か違うじゃん?」
そんな前置きをして、ウェヌスは友神に関して語っていく。
「フレイヤが君の前任者を担当してた頃、ラブコメは空前のブームだったじゃん? いわゆる、日常系学園ハーレムもの。どこにでもいるようなごくごく普通な高校生ってフレーズじゃん?」
「あぁ、ラブコメの歴史はざっくり調べた。よくわからん名称の部活に男は主人公一人、他のメンバーは全員おかしな美少女パターンだろ。基本、駄弁るやつ。主人公の役目は、やれやれ受け身で難聴アピール」
ラブコメ主人公像として、俺は結構参考にしている。だが、彼らのわざとらしい鈍感アピールを素の状態で模倣は困難だ。
なぜか? 人の好意をあらゆる手段を講じて曲解せずにはいられないとか、とてもまともじゃない。俺も変な奴とよく言われるが、流石に連中の領域には到達できない。
自分、まともなおかしい子ゆえ。
「詳しいじゃん。で、フレイヤは教育熱心というか世話焼き好きだから、前任者にあーだこーだべったり、あーしろこーしろ干渉して……」
ウェヌスは苦笑交じりに。
「気づけば、見解の相違で大喧嘩。価値観の違い? ラブコメ性の違いってやつじゃん?」
音楽性の違いみたいなノリやめろ。それ、バンドの解散理由ナンバーワンじゃねーか。
いや、待て。実は、弱小ガールズバンドに主人公が作詞作曲を通してモテるラブコメならばワンチャン――
「確か、友達がいないと校内で肩身が狭いから、偽装フレンドを作って助け合う部活? そんな設定だったじゃん」
「さいで」
ワンチャン失敗。まあ、その辺はどうでもいい。
「前任者は、主人公補正を過信して何をやっても上手く行くと勘違いしたじゃん。フレイヤの忠告を無視して、突然スクールカースト上位を目指したり、ハーレムを拡大しようと部活外の女子に手を出したり……」
「そマ? 日常系のラブコメ主人公、動かざること山の如し、だろ。俺でも予想できるぞ。動いていいのは、ヒロインが困ってる時だって」
「予想通り、前任者のカースト成り上がり計画は失敗。あまつさえ、部活の外にご執心した結果、ヒロインを繋ぐ楔がなくなり部活は空中分解じゃん。ヒロインたちは各々、真の友人を作るきっかけを他の男共にもたらされ、イケメンやリア充とラブラブチュッチュな青春を謳歌するのでした。めでたしめでたし、じゃん」
ヒロインが皆、幸せになったのか! だったら、ハッピーエンドだ! やったね!
ではなくて、ラブコメ的にかなり悲惨な結末である。控えめに言って、バッドエンド。
「元ヒロインたちに前任者は黒歴史判定され、それぞれの幸せな恋路を遠目に眺める悲恋は、当時すこぶる批判殺到だったじゃん。ギョウ界での<ラブコメ>ブームの火消し役。人気を失墜させたA級戦犯フレイヤはしばらく自宅謹慎。ぶっちゃけ、ギョウカイ神の仕事を干されていたじゃん。うちとエロースが柄になく何度も励まして、現在に至るじゃん」
ウェヌスが、コップの水を一気に飲み干した。
今日は真面目な話なので、酒は注文していない。
俺は驚きながらも、冷静に口を動かせていた。
「フレイヤのトラウマ、大体把握した。以前、ウェヌス氏が過去の失敗を匂わした時、もしやこんなエピソードが白日に晒されるかもって危惧してたよ」
エロースが担当する<官能>ならば、ヒロインの寝取られは一種の興奮材料だろう。
ふと、気付いた。
「聞いた所感、別にフレイヤは悪くなくね? 拠り所を蔑ろにしたの、前任者じゃん?」
「いいや。物語を作るのは、主人公。でも、責任を取るのはギョウカイ神じゃん」
ウェヌスが真面目な顔で、じゃんにじゃんと返した。
「フレイヤは、良くも悪くも主人公に過干渉。本人も認めてるけど、その行為がバッドエンドへ導いたじゃん。自覚がなかったら、叱ったところじゃん」
「過干渉ねえ。そういえば、ウェヌス氏と何度も会ってるけど、そっちの主人公を見たことないな」
「ギョウカイ神と主人公の顔合わせは、契約時に限るのが慣例。あとは記憶を誤魔化して、見守りスタイルが主流じゃん。うちと担当の子は一年くらいだけど、直接会ったのは二回だけじゃん」
そんなものだと頷く、ウェヌス。
薄情というか放任主義? ビジネス上の関係と言えば、それまでだが。
「やっぱり、フレイヤのじゃんじゃん絡むタイプは珍しいってわけか」
「実際、リンネの方がギョウカイ神の在り方として王道じゃん」
異世界転生のギョウカイ神。ウェヌスやエロースと比べても、主人公に興味なさげ。
フレイヤと性格やスタンスが反発して、仲が悪そうだったな。
「昔から、お互いに反りが合わなかった。なのに、主人公を一人巡って再び対決構図とか運命で結ばれた関係。まるで、神が仕組んだ悪戯じゃん」
「オメーら全員、神だろッ。いい加減にするじゃん!」
そして、ツッコミじゃん。
俺は、ラブコメのギョウカイ神の過去について触れた。
感想は、ある意味お前も落ちこぼれだったのか。それくらい。
失敗を知る者同士、親近感を抱いたのも頷ける。主人公は共感性を求めろって、ハウトゥー本にも載ってた。
「前回、随分痛い目に合ったのに、フレイヤはやり方を変えなかった。きっと、君を気に入って主人公にしたじゃん。放っておけなかったじゃん?」
「優先度は台湾スイーツの方が上だがな」
「アハハハ! それは仕方がない。女子にとって、甘いものは別腹じゃん?」
ウェヌスがうんうんそれ分かるぅ~と頷いたものの、全く関係ない女性目線やめろ。
大方、聞くべきことは聞いた。あとは、本人と面談だ。
俺が席を立つや、背後から声をかけられた。
「うちの友を頼むじゃん。困難を乗り越えて行け、ラブコメ主人公」
「やれやれ、ギョウカイ神のメンタルケアは主人公の仕事じゃないだろ」
俺はガックシと肩を落とす。深い溜息を吐きながら、アメリカ人よろしく両手を広げた。
申し訳程度ながら、主人公補正向上に努めてみた。
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