第26話 ファンタジー体験
冒険者ギルドは、酒場と併設されているのが常だ。
いや、別に常ではないが大体そんな感じである。新参者は昼間から飲んだくれの荒くれ者の洗礼を受けるが、一杯奢るよの一言で揉め事を回避するのである。
町へ来る途中、俺は道端でスライムと接敵した。おそらく最弱モンスターだが、俺はモンスターと戦闘なんてしたことがない。自分、現代っ子ですから。
突っ込んでくるスライムに対して、俺は戦うコマンドを選択。しかし、この世界にAボタンも〇ボタンも存在しない。
やぶかぶれの回し蹴り! スライムに10ダメージ! スライムをやっつけた!
テテテテッテ・テッテーッ! 隆はレベルが上がった、気がする!
ひのきのぼうすら支給されていないが、どうにか窮地を乗り越えた。ちなみに、ダメージ計算はてきとう。職業が格闘家じゃないと回し蹴りの特技は使えないと思ったが、此度のテーマは細かいこと気にしたら負け。ゴーイングマイウェイの精神さ。
スライムを倒してコインを獲得するも、理由は分からない。異世界転生先がゲームっぽい仕様に溢れていることもまた常である。ツッコミしても無駄だ。俺は全てを悟った。
辺境の町でスライムを倒しまくったら最強になったのだが? と、なろうイズムをキメようかと思ったが、整備された道にモンスターはほとんど現れず安全だった。
そりゃ、普段使う道が危険なわけあるまい。スライムを三匹探したところで、俺は早くも飽きていた。そうだ、町へ行こう。そんなこんなで、冒険者ギルドへご到着。
「ど、どうも~」
人見知りが発動し、コソ泥よろしく扉をくぐった。
受付は施設の最奥。職員らしき人たちが、武器や防具を身に纏うコスプレ集団もとい冒険者の応対をしていた。あの列に並べばいいのかしら?
俺が待っていると、チラチラと好奇の視線が突き刺さる。ふと、気付いた。異世界で、ジャケットジーパンスタイルの方がコスプレか。なかなかどうして、傾きおるわ。
「ハッ、弱そうなあんちゃんだぜっ。そんな装備で大丈夫かぁっ」
筋骨隆々。スキンヘッドのオッサンがニヤニヤとヤジを飛ばした。
「ウェイターのバイトならもう間に合ってるぜ」
「「ハハハ!」」
「「「HAHAHAHA!」」」
新参者イジリで酒場は盛り上がっていた。
ここは一杯奢るよ作戦で乗り切ろうとしたが、あいにく注文の仕方が分からない。
以前、ステバで受けた傷が完治していなくてな……
俺は、背中を丸めて荒くれ者のやっかみを耐え忍んでいた。
「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか」
冒険者ギルドのロゴ入り帽子を被った女性が営業スマイルを携えた。
「あ、あのぅ~。冒険者になるにはどうすればいいんでしょう?」
田舎(異世界)者丸出しの質問に、女性は定形文を口にするように。
「冒険者の新規登録ですね。かしこまりました。登録手続きの準備を済ませますので、それまでこちらのアンケートをご記入ください」
アンケートを読むと、氏名、年齢、出身、特技など記入項目が羅列している。
「えっと、大原隆、享年17、地球生まれ、特技は……ラブコメ?」
いや、特技は異世界転生か? 本来、適正はこのジャンルだし。
俺は、うーんと首を傾げた。
なぜ、異世界の言語が読めるとか、書けるとか、それはきっと些細なことだね。
「お待たせしました。アンケートを回収します」
女性職員は、ふんふんと頷いた。
「はい、全部埋まってるので大丈夫です」
おい、小テストじゃないぞ? それで資格発行できるん?
アンケートは流れ作業なのか、記入内容は追及されなかった。
身分証明書要らないの? 実は、マイナンバーカード持ってるよ?
そもそも、冒険者自体が身分もへったくれもない存在か。よく言えば、何でも屋。ぶっちゃけ、社会不適合者。基本、モンスターと命のやり取りを経て、金銭を得るバトルマニア。
まともな神経じゃ、務まるまい。
女性に案内された先に、血圧の測定器みたいな機材が設置されている。
「こちら、適性値メーターになります。ステータスを計測して、ジョブと呼ばれる得意分野に応じた型を見つける魔導具です」
「なるほど、実物は初めて見たけど何か分かる」
俺は、この先の展開に既視感を覚えた。賭けてもいい。この後、女性は度肝を抜かす。
適性値メーターを腕に巻き付け、俺のステータスが計測される。
10秒後。魔導具がチーンッと反応した。電子レンジか。
「適性値SSSランクっ!? こんなステータス、どうやって!?」
女性はメーターが弾き出した結果に唇を震わせ、腰を抜かした。
度肝じゃなかったかあ、と俺が冗談を呟くや。
「適性値SSSランク!? おいおい、特上かよ!」
「ハッハー。すげーじゃねーかっ」
「勇者様の誕生だぁ! 俺ァ、あんちゃんを初めて見た時からただモンじゃねぇって見抜いてたぜ!」
ザワザワと、期待のルーキーがギルド内の話題をかっさらった。
オッサン、まずは坊主にして詫びてもらおうか。あ、ハゲでした。
「確認のため! もう一度、測定お願いしますっ」
「オーケー」
俺は、再びこの先の展開に既視感を覚えた。賭けてもいい。この後、女性は落胆する。
計測メーター、アゲイン。針が計測ラインを振り切って一周、二周した。俺でなきゃ見逃しちゃうところだった。
「適性値……っ! ……F、ランクです……」
興奮気味な表情が一気に冷え込み、女性は落胆声で判定を下した。
シーンと、会場に静寂が押し寄せる。
「適性値Fランク!? おいおい、下の下かよ!」
「ハッハー。クソ雑魚じゃねーかっ」
「俺ァ、あんちゃんを初めて見た時からただモンじゃねーって見抜いてたぜ!」
オッサン、言ってることは同じなのに真逆の意味って凄いな。
テンプレ順守のため、ガックシと肩を落とした俺。Fランクかー。くそー。
コホンと女性は咳払い。
「ま、まあ、適性値は将来性の目安というか、あくまで参考ですからっ。Fランクの場合、少し選べるジョブが少ないですが……」
「大丈夫です。導入部として、いつものパターンをなぞってますし」
「はい?」
女性職員の疑問を流し、俺は冒険者カードを頂戴した。
冒険者カードとは、ギルドで手続きを円滑に進めたり、冒険者のステータスを更新する際に使う便利なアイテム。まるで、魔法だな。ここ、ファンタジーワールドでした。
俺も魔法を使いたい。スライム、首を洗って待ってろ! あいつの首、どこかしら?
「こちら、ビギナーのススメです。駆け出し冒険者に必要な情報がたくさん記載されていますので、ちゃんと読んでください。後悔先に立たず、ですよ」
異世界なのに、日本のことわざが――以下略。
「了解です! とりあえず、Fランク扱いされたので主人公補正はバッチリだ!」
「あ、待って! まだ説明が――」
女性の制止を振り切って、俺は冒険者ギルドを飛び出した。
『俺YOEEEとFランク扱いされたので、ラストダンジョン手前でソロキャンしながらDIYで営みます。』
奇しくも、俺が読んでたなろう系とうり二つ。
であるならば、ご都合主義はいくらでも起きよう。
なんせ、俺は今、異世界転生の主人公なのだから。
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