第25話 投げ出されて、異世界
石畳が広がり干し草が積まれた、カントリーな町並みだった。
風車と水車、ついでに馬車が回る中、牧歌的な雰囲気と共にそよ風が凪いでいく。
「これ、知ってる。みんな大好き、中世ヨーロッパ風の田舎テイスト」
俺は、思ったよりテンションが低かった。
昔から疑問に思っていたのだが、どうして異世界転生すると九割九分九厘九毛の割合で世界観が中世ヨーロッパ風なのだろう。ぶっちゃけ、ドラ〇エ風なのだろう。
まさか、異世界転生の創造主たちがろくに舞台設定を構築できないわけあるまい?
まさか、異世界転生の創造主たちが昔やったゲームだけが参考材料なわけあるまい?
まさか、異世界転生の創造主たちがファンタジーを全く勉強しないわけあるまい?
圧倒的に取材して、圧倒的に要素を捨ててこそ、空想は現実に成り代わるのでは。
「まあ、あの界隈はとにかくテンプレ重視って聞くもんな。リアリティーを気にするなら、純文学に浸れってことか」
細かいこと気にしたら、負け。
一応、俺は<異世界転生>の適性があるらしい。すぐに順応するだろう。
しかし、どうしたものか。困った状況である。
俺には今、目的がない。半ば無理やり異世界へ飛ばされ、魔王退治という設定も与えられておらず、手持無沙汰この上なし。
「お助けキャラは何処や?」
この世界の基本ルールや法則を教えてくれなきゃ、活動できへん。
ったく、言われなきゃ何もできないのかよと心の中の昭和世代が嘆く。
対して、言われたこと以外何もするなよと心の中の平成世代が衝突した。
ちなみに、言われたところで何も分からないよと心の中の令和世代がバブバブー。
俺が腕を組んで悩んでいると、麦わら帽子を被ったおじいさんが通り過ぎた。
「第一村人発見!」
「おんや。見かけない顔さね」
「自分、通りすがりの異世界人です。享年17でしたっ」
「そうかいそうかい。そのわりにゃ、元気いっぱいな青年さね」
俺の挨拶を冗談だと受け取ったようで、おじいさんは破顔する。
「あの! えっと……聞きたいことがあるのですが」
「何さね?」
「この辺り、冒険者ギルドってあります?」
俺は、当てずっぽうで質問した。
異世界転生したら、まず冒険者ギルドへ行く。
俺が読んだなろう系の半数は、主人公が冒険者になっていた。
「冒険者ギルド? はて、お前さん。冒険者になるつもりさね?」
「はい。目下、目的を探すことが目的です!」
「うむ~。自分探しとは、若いのに苦労してるさね」
若干、会話が成立していないと思った。
けれど、これは異文化交流。まさに今、文化の違いを肌で感じているのだ。
「この町の若いモンも皆、冒険者になるってはやりおってるさね。一獲千金、英雄志願。夢はデカくなる一方。畑仕事は今じゃ、ますます後継者不足さね……」
おじいさんが愚痴を漏らし始めた。
……あのぅ~、この話長くなりますかね? 自分、先を急ぎたいのですが。
パッと、割愛。
「――ということさね」
「なるほど! 確かに! そうなんですか! 勉強になります!」
俺は、相槌の隆なる異名を会得する程度うんうんと頷いた。
異世界くんだりまで来て、ご老人と世間話かい。まだ、スライムとも遭遇してないぞ。
「ところで! 冒険者ギルドって、この町にあります?」
おじいさんの長話にインターセプトすると。
「こんなド田舎に冒険者ギルドなんてあるわけないさね。この道を真っすぐ。隣町に向かいなされ」
「デスヨネー」
俺はおじいさんにお礼を告げ、田園風景溢れる砂道を駆け出した。
ところで、異世界人とフツーに会話できるのはなぜだろう?
その辺の仕様が気になる今日この頃です。
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