第20話 講評

「隆。帰りのHR、とっくに終わったわよ」


 フレイヤに頬をつねられ、俺の意識は覚醒した。


「生徒が一人いないのに、もうさようならしたのかよ」

「いないのが隆だったから、満場一致で進行したわね」

「さいで」


 2年1組は生徒一同、先生合わせて仲良しです。

 俺は、お腹をさすりながら身体を起こした。穴、穿たれてない? 大丈夫?


「なかなか良かったんじゃない? ちゃんとテンプレをこなしたみたいね」

「フレイヤ、見てたのか? いや、現場には二人しかいなかったはず」


 俺は名探偵よろしく顎に手を当てるが、皆目見当付かない。


「跳び箱の中から覗いてた?」

「そんなことするわけないじゃない。覗きはあなたの専売特許でしょ」


 フレイヤは、フンと鼻を鳴らした。


「単に、ラブコメの波動を感じたの」

「ラブコメの波動?」


 ピンク色のオーラでも放出するん?


「ラブコメ主人公がイベントをこなすと発生する粒子みたいなものよ。主人公の証ね」


 波動だったり、粒子だったり。ラブコメの正体はフォトン光子だった?


「わたしがラブコメの波動を感知できるくらい、隆はイベントをドンドンこなしていく。そうすれば、存在証明になって消滅の危機が回避される。簡単な話でしょ」

「一回のカロリー消費が激しい。もうしんどいぜ」


 俺はぐったりと再びマットへ倒れ込んだ。演者の安全管理はスタッフの仕事やろ。主人公にやらせるなし。

 いろいろ気を回して、頭痛が痛い。

 ぼくはエロエロなことだけ考えて生きたいとです。


「ちゃんとオチまで運んで優秀だったわ。正規主人公でも約半数程度、シーンが間延びして放送事故になったりするからね」

「今すぐそいつらの主人公補正寄こせ。俺より活躍しない主人公は即刻消滅しろ」


 不平を漏らすや、フレイヤに鼻をつままれた。引っ張られた。遊ぶな。


「頼りない主人公をサポートしてあげるのもギョウカイ神の役目よ。隆の場合、自分で切り開かないと先がないのが困りもの」

「奇跡が起こって消滅しないパターンは?」

「そうね、奇跡は起こせるわ。あなたが真っ当なラブコメ主人公に格上げされればね」


 それこそ、奇跡みたいな話だなあ。

 俺は、やれやれと肩をすくめるばかり。


「この前、言ったでしょ? 隆が諦めない限り、手伝ってあげるって」


 フレイヤは、俺の腕を掴んで引っ張り起こした。


「寝てる暇はもうないわ。ヒロインにちょっかい出しに行きなさい。ボケっと待つのが許されるのは、ハーレム系主人公だけよ?」

「優しいところが好きとか、言われてみたいね。どうも」


 俺たちは、倉庫を後にした。

 今日はもう帰りたいが、暴行犯に拉致されたヒロインを迎えに行かなくては。

 俺の予想が正しければ、杜若さんはすでに……

 どんな結果が待ち受けていても、見届けようじゃないの。

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