第14話 詮索

「いつ帰って来たの?」


 フレイヤがむくりと起きた。

 リビングの時計は、14時を指している。


「一時間前」

「疲れて寝ちゃったのかしら? あまり覚えてないんだけど」


 フレイヤは、まぶたを擦って、う~んと身体を弛緩させる。


「ウェヌス氏がよろしくしてってさ」

「おかしな話ね。隆の世話をしてあげてるのはわたしじゃない」


 せやろか?

 さりとて、偉そうな物言いをするほど、先刻の理性ガバガバ神に可愛げがあるもん。

 くくく、フレイヤたん萌え萌えだもん。


「気持ち悪い顔してどうしたの? そのニヤケ面、通報されるわよ」

「ただの思い出し笑いだよ。酔っぱらうと我を失う素っ頓狂な奴の」

「ふーん。あなたの知り合い? 酒は飲んでも飲まれるな、って教えてあげなさい」


 自分のことだとは露ほど疑わない、フレイヤ氏。

 ぼくも、これくらい図太くありたいと思いました。

 甲斐甲斐しいことに定評がある俺は、フレイヤにウーロン茶を注いでやった。

 フレイヤがお茶請けに煎餅を齧る。


「そういえば、フレイヤってどんなラブコメ主人公を育成してきたんだ?」

「……」


 ぼりぼり。


「そういえば、フレイヤってどんなラブコメ主人公を育成してきたんだ?」

「……」


 ぼりぼり。

 無視っ!

 おいおい、黙ってくれるな。ギョウカイ神って架空の存在じゃないよね?

 まかさっ、妄想と孤独が生み出したイマジナリーフレンドだった!?


「今までのやり取りは全て叙述トリック!?」

「うるさいわね。隆、騒がしいのは顔だけにしてちょうだい」


 フレイヤ、ため息をこぼす。

 リモコンを手に取り、ワイドショー番組・オカネ屋を視聴ついでに。


「あなたは、わたしが担当した主人公たちと全然違うわ。比較したって、何の意味もないでしょ。参考にしようとしても無駄よ。隆、テンプレに乗せることすら苦労する大物だから」


「よ、よせやいっ。誰が、敷かれたレールに乗るだけを良しとしない自立した若人だよっ」

「……全く褒めたつもりはないけど、そういうところは褒めてあげる」


 つまり、どういうことだってばよ?

 つまるところ、フレイヤは昔の話を嫌うようだ。

 過去の失敗について触れたくないのだろう。俺、もう知ってるけどね。ハハッ。


「前任者のことは気にしないでいいわ。使える点があれば、教えてあげるから」

「オッケー。オレ、ナニモシラナイ、キヅイテナイ」


 バッドエンドの件は、本人が語るまで忘却の彼方へ飛ばしておこう。

 くぅ~、俺って配慮しちゃうタイプぅ~。


「……? 今日は特に珍妙ね。何か拾い食いでもしたわけ? ご飯なら作ってあげるわ。だから、拾い食いはやめなさい」


 フレイヤが、優しげな眼差しで諭してきた。


「俺の気配りを返せ!」


 次言ったら、「前任のラブコメ主人公、どこに行った?」ってズケズケ聞くからな!

 憤慨、プンプンだもん!

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