第9話 生態観測
教室での観察。
杜若さんの席は、教室ど真ん中。
四方八方、縦横無尽、上下左右。
ノートを取っているだけで、下々なる者たちの羨望の眼差しを集めていた。
上下は過言やろと思いつつ、机上から美人のご尊顔を眺望しようと企てるチャレンジャーは実在した。これが立見席というやつか。違うね。
位置の関係上、俺はターゲットの耳をじろりと見ていた。あ、ピクっとした。
「ねえ」
ターゲットは耳にかかった黒髪をかき上げ、時折うなじを覗かせた。
普段隠れた部分に目を凝らした、俺。ホクロ、発見。
「ちょっと、無視するわけ?」
藤原の不機嫌な声をキャッチ。なんなら、いつも不機嫌そう。
仕方なしに左へ顔を向けた。
「うざ」
つーん。
「どした。俺、忙しい。やから、ダメ絶対」
「は? あんた、さっきから気持ち悪い顔してるけど? その顔で女子を見るの、セクハラだから。変顔で杜若さんの気でも引くつもり? 引くわ」
「藤原が引くんじゃない。というか、観察してたのよく分かったな」
確かに、見返らぬ美人(本人が)に熱視線を送っていた。
しかし、それは水面下の話。ライクアスワンの精神で平静を保ったつもりが、俺に興味がなさそうな藤原に見事看破されてしまった。
「別に、大原のことなんていちいち気にしてないけど? あんたの粘着質で下卑た視線に堪えかねて、注意しただけだから。勘違いしないでよね」
「お、おう。結局、お前は被害者じゃないはずだが」
「きも」
藤原は、フンと鼻を鳴らして窓を全開にした。換気かい?
隆です。
クラスの女子がナチュラルにそっぽを向いて、悲しいとです。
光の反射で窓に杜若さんが映った。
杜若さんは、トランプに興じるグループを見つめている。と思えば、スマホゲーで騒ぐ連中を睨んでいた。
平和ボケした談笑が騒がしくなるほど、彼女の形相が夜叉のごとく変化していく。
なるほど、弱い奴ほど群れをなす。グループを形成して、己の矮小さを誤魔化すな。
集団とはいざという時、自己保身に走り生贄を捧げるためのシステムである。
自分を助けられるのは、最後には自分しかいないのだ、と。
ひょっとして、杜若さんは人間社会へ警鐘を鳴らしていたのかもしれない。
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