第7話 おやくそく
「さて、どうしたものか」
今更、考えても無駄だと思うが、俺はフィーリングで解決できるタイプにあらず。
提供された設定に乗っかり、与えられたシチュエーションに流され、ご期待に沿ったリアクションをする。そんな名バイプレイヤーな主人公でありたい。
矛盾を乗り越えることが、主人公の条件だ。って、ハウトゥー本に書いてあった。
斬新なアイディアを閃くなら風呂が一番だ。って、同著に書いてあった。
湯船に浸かって、今後のラブコメ対策を練ろう。
予習と復習はテスト前だけにしてくれ、と愚痴りつつ洗面所へ足を運んでいく。
いつもの調子で脱ぎ散らかした衣服を、洗濯機へダンク。
稀によくあるのだが、俺はボーっと無意識に陥ることがある。1分ほど記憶が飛び、突如目の前の光景が刷新されて驚愕してしまう。格好良く言えば、ゾーン状態に入る。
――気付いた時には、浴室のドアを開け放っていた。
湿った空気が顔の辺りを突き抜けていく。
「……っ!?」
目が合った。
誰と?
「な――っ!」
フレイヤは、シャワーを浴びていた。
薄桃色のロングヘアーから肌に水滴が伝わり、身体を包み込んだ石鹸の泡が床に垂れ落ちていく。線の細いボディライン、くびれた腰つき、長い脚が蠱惑的だった。
美女の裸体が視界に映り、俺はボルトで固定されたかのごとく首が回らなかった。
たわわに実ったおっぱいが、ピシャーンッ!
下腹部と白い太ももが描くデルタ地帯は、ピシャーンッ!
「おい! ピシャーンッ! って、何だよ!」
SE・ピシャーンッ!
謎の白い光が、フレイヤの大事な部分を邪な視線から完全防御した。
これ、知ってる! モザイク処理だ! BDだと取れるやつっ!
「隆っ! わたしでお風呂シーンを試すなんて、とんだ覗き魔ね」
蹲るように胸を両手で隠した、フレイヤ。
羞恥心で頬を紅潮させまして、此度は意表を突かれたご様子で。
「ち、ちがっ……これは事故だ! 俺は、組織にハメられたんだ」
あたふたと慌てた、俺。今回はまだ、素のリアクションじゃよ。
けれど、そのポーズ。胸の谷間がムニュッと強調されて、良いと思います。
「わたしにラブコメを仕掛けるなんて、100年早いのよっ! このヘンタイッ!」
眉根を寄せたフレイヤは、ケロリーンなオケを投げつける。
「バッハッ!?」
別に、音楽の父はお呼びじゃない。
顔面にクリーンヒットした俺は、洗面所で仰向けに倒れ込んでいく。
「フン。素人のくせに、わたしの隙を突くなんて健闘するじゃない。でも、ここで見たものは忘れなさい! 絶対だからね!?」
ラブコメのギョウカイ神は、プイっとそっぽを向いてしまう。
そそくさとバスタオルを巻くや、洗面所を後にするのだった。
足音が聞こえなくなり、俺はヒリヒリする顔を押さえた。
「これが、ラブコメギョウカイの洗礼か……ぐふ」
図らずも、年頃の乙女(年齢不詳)の素肌を目撃してしまった。
これぞ、ラブコメ主人公のなせるわざか?
ククク、これからも美少女の痴態を拝んでピシャーンッ!
……おい、俺の眼差しにモザイク処理やめろ!
どうやら、謎の光はラブコメ主人公の下心を監視しているようだ。
ピシャーンッ!
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