第4話 なにが「いいね」になりますか?
早速、神様を目指すべく作戦が始まった。
今目の前にはタブレット端末のようなものが出されている。
「これは頂タブレット、通称イタタブと呼ばれるものだよ。
これで書いたイラストはカメラからこちらの動きをキャッチして動きを反映させてくれるんだ。」
「勝手にイラストが動くの!?すごい!」
見た目はこっちの世界のタブレット端末にしか見えないけど、こちらのテクノロジーよりやはり魔法などがある分かなり発展してるみたいだ。
試しに棒人間を書いてみるとこちらの動きに反応して手をくねくねと振った。
「わぁ!すごい、これ楽しい!」
「そっちの世界にはなかったの?」
「動かそうと思ったらとっても手間がかかるって聞いたことがあるよ〜」
少なくとも何枚も絵を書いたりしないといけないって聞いたことがある。
それでさらに機材の色んな機能を使って調整したりですごく大変!だからスタイリストさんってとても貴重な存在だったのだ。
でもこれだけ簡単にVライバーのモデルを作れるならライバル配信者も沢山居そうだ……。
「『カミサミゲート』って登録者やっぱり多いの?」
「うん、日に日に増えてるよ。
神様志望は勿論だけど、エンジョイ勢……動画投稿を純粋に楽しむ人たちも沢山いる。
使い方は人それぞれだよ」
それに関しては私たちの世界と変わらないようだ。本気で登録者数を増やしたい人もいれば、のんびりとやっている人もいる。そんな人それぞれの世界が楽しいと私も思う。
だが、今回の私たちは本気だ。あまりのんびりもしてられない。
私はイタタブのペンを握りしめ、しっかりと画面、そしてハヤトくんと向き合った。
「じゃあ、ハヤトくん。
ハヤトくんはどんな自分になりたい?」
「どんな自分……」
「そう、理想の姿を教えて。
例えば可愛くなりたいのかかっこよくなりたいのかとか〜。
何にでもなれるよ、私が何にでもしてあげる」
私の言葉にハヤトくんは「うーん」と考え込む。
悩むのは大事だ、ここはビジュアルを決める上で一番大事な部分なのだから。
「えっと……とりあえず背は、高くなりたい。
大人っぽく、頼りになるような見た目がいいな」
「いいね、頼れる大人、大事だと思うよ」
「あとはそうだな、やっぱりせっかくだから髪は長く、ちょっと人間離れした見た目がいいな」
「わかる、神様だもんね」
「それで、どんな人にも届きそうな感じがいい。」
「どんな人にも……か……。」
聞いた要望をしっかりメモし、浮かんだイメージをスケッチしていく。
今まで妄想してきたビジュアルも浮かべつつ、イメージをハヤトくんのものに出来るだけ近づける。
「これで、どうかな?」
しばらくした後に、ラフスケッチを見せる。
そこには青い髪の長い、羽の生えた人魚の青年が描かれていた。
すらっと背は高く、長い手がこちらに差し伸べられている。
「地上はもちろん、海の中でも、空の上でも、届くような存在であって欲しいなって思ってこれにしたんだ。
ハヤトくんの好みに合うか分からないけれど……。」
イタタブを覗き込むと、ハヤトくんは目を輝かせて、強く頷いた。
「いい、すごくいいよ!これで作って!」
「わかった!任せて!」
それから私の作業時間が始まった。
イタタブを触るのは初めてだったけど、少し触れば簡単に慣れた。
難しいというより、少し触れば新しい効果が見つけられることにわくわくした。
どんどんと絵が彩られていく。
その間、ハヤトくんは歌の練習をしていた。
ハヤトくんは歌が得意らしく、これを売りにしていくのがいいって聴いて一発でわかった。
何がいいねに繋がるか分からない、だからこそ私たちは少しずつ努力していくのだ。
「ハヤトくん歌が上手だから、やっぱり初投稿は歌がいいんじゃないかな」
「でも……人の歌を借りるのは権利とかの関係でとてもお金かかりますし……」
「やっぱりこっちの世界でもそうなんだね。勝手に借りる訳には行かないし……」
絵の休憩時間にカミサマゲート内を巡ってほかの動画をチェックする。
トークの動画以外にも歌やゲームを上げてる人もいるが、やっぱり許可を取ったり、または自由に使っていいものを使うしかないそうだ。
そうでないとこの世界にも「通報」という概念はあるみたいだ、恐ろしい。
「うん?これとかどうかな」
ふと、ひとつの歌動画が目に留まる。
人工音声ソフトで作られた音楽の動画だ、本人がでてないあたり「エンジョイ勢」の作ったもののようだ。
素人が作ったもののようだが、その曲がとても魅力的に思えた。
そしてその動画には「どうぞ歌ってみてください」とカラオケ音源のファイルが付けられていた。
「これを歌ってみたらいい感じになるんじゃないかな?」
「うん、すごくいい曲。僕頑張ってこの曲歌えるようになるね!」
そこから初投稿に向けての準備が本格的に始まった。
私はイタタブでアバターを仕上げ、ハヤトくんは歌を仕上げる作業。
異世界にやってきて何も分からないと思ったけど、夢のお手伝いができるのは楽しい。
なんだか私、ワクワクしてきたかもしれない!
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