第3話 これも「いいね」に変えられますか?

 この世界の神様はハヤト君のいとこ。

 その事実に思わず目を丸くする。


「そ、そんな大物が、いとこなの?」

「はい、『ボイド』は、マルスケ兄さんは僕のいとこです。

 昔はよく遊んでいたので知っています」


 なんてこった、私はとんでもない人に拾われたのかもしれない。

 そして「昔は」という言葉がどうも引っかかった。


「今は遊んでないの?」

「ええ、神様になってからは忙しいですし……性格も合わなくなっちゃって。

 昔はあんな性格じゃなかったんですけど、今は……」


 そう言ってハヤトくんはディスプレイの方を指さす。

 画面の中ではボイドがたくさんの宝石に囲まれながら手を振っている。


『今日は流行りの異世界転移に手を出してみたよ!

 どんな子がやってくるか楽しみだね!

 ガチャみたいでワクワクする〜!』


 そんなふうに一言いえばコメントが「楽しみー!」「ボイド様最高ー!」「SSR引いてボイド様」などで埋まっていく。

 ……異世界からやってきた身としては大変なことだらけなのだが、こちらのことは考えられてないらしい。


「この調子で、チヤホヤされることならなんでもやるようになっちゃったんです。

 善悪の区別がつかなくなっちゃってると言うか……」

「それって誰か止めたりしないの?」

「彼ほどの人気になると彼を応援する人……信者も沢山います。

 信者たちに押し返されちゃって誰も止めることはできません」


 大変な世界だ。現実でも似たようなことはあるけれど、それとは比べ物にならない影響力。この世界の人は生きていくのが大変そうだ。


「でも、止める方法が無いわけではありません」

「ホント?」


 ハヤトくんは不意にそうつぶやく。

 思わずその言葉に勢いよく反応してしまう。

 神様を止める方法、それがあるのなら気になってしまう。


「この世界は『いいね』が全てです。

 神様よりたくさんの『いいね』を集めることができるようになれば、新しい神様になることができます」


 悩むような顔をしてハヤトくんは言う。

 それはそうだ、それはとても難しいことだって私でもわかる。

 でも……無理だ、とバッサリ言えない理由もあった。


「ハヤトくんは『ボイド』が嫌いなのに見てるんだよね?

 ハヤトくんはもしかして……」

「ええ、僕はいつか、神様になりたいです」


「とんでもない夢でしょ?」と続けてハヤトくんは困ったように笑う。

 でも私はそれを笑いとばす気にはなれなかった。だって、ハヤトくんにとってそれが本気なのがこの短い時間でもわかったから。


「何がやりたいとか、具体的にあるわけじゃないんです。

 でも僕は、人を馬鹿にしたり、振り回したりしない、あくまでみんなの笑顔の象徴になるようなライバーに憧れてるんです。

 それに、神様の力があれば……君みたいな困ってる人を助けてあげられるかもしれないし。」

「素敵じゃん!目指そうよ、神様!」


 目を輝かせて、ハヤトくんの手を取り、握る。

 Vライバーを推してるものとして、その夢はとても魅力的に見えたから、応援したくなった。


「でも、僕上手く絵を書けなくて……。

 神様は現実の姿と別の姿が必要だから……。」

「もしかして『スタイリスト』が必要ってこと?」

「そうです!スタイリストさんが必要なんです。

 でも僕には雇うお金が無くって……。」

「……それなら私に任せて、私、やりたい!」


 Vライバーのスタイリスト。

 それはずっと私の憧れてきたものだ。

 この世界の機材がどんなものか分からないが、絵にはちょっと自信がある。

 神様のスタイリスト、魅力的だ、やってみたい。


「私ね、絵にはちょっと自信があるの

 それに、Vライバーのスタイリスト、ずっと憧れてたの。

 機材とか、やり方とかは、ちょっとずつ慣れていくから、やってみたいの!」


 私の真剣な目に、冗談じゃないと感じたのかハヤトくんは頭を下げる。


「お願いしていいですか……えっと……」

「夢望!ユメミって呼んで!」

「えっと、ユメミ……お願いして、いいかな?」

「もちろん!だからビッグな神様に、なろう!」


 この状況を『いいね』に変えるための作戦開始だ。

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