第2話 いいねが全ての世界ってホントですか?

「えっと……大丈夫ですか……?」


 私の叫びに少年は戸惑いを見せる。

 それもそうだ、急に目の前の倒れてる人が叫んだらびっくりもする。

 私は落ち着きを取り戻すべく、とりあえず深呼吸をする。

 息を吸って、吐いて。うん、少しだけマシになった気がする。

 私は改めて状況を少年に聞くことにした。


「ごめんなさい、急に取り乱してしまって……。

 私、遠いところ?から来て、気がついたらここに倒れてて……。ここがどこか分からないんです」

「えっ、えっと……と、遠いところ……?」

「うん、スマホに……と言っても通じるか分からないけど……なんか、ハートマーク?が浮かんで……」

「そ、それって」


 慌ててまとまってない私の言葉にも、少年は目を丸くして言葉を続けた。


「も、もしかして、異世界とか?」


 なんて飲み込みが早くて、そしてなんて察しが良いのだろうか。

 少年は手に顎を乗せて考え込んでしまった。

 なんて声をかけたらいいのかわからず、戸惑っていると突然、少年が私の右手を握る。


「……すみません、ちょっと場所を移動しましょう!」


 真剣な顔でそう言うと、私の手を引いて走り始めた。


「わっ……!?ま、待って!?」


 私の声もお構い無しに少年はその小さい身体の割にある力で私の手を引いていった。


 ◆


 どれくらい手を引かれたか分からない。

 しばらくするとマンションのような場所にたどり着いた。

 こうして周囲を見渡すと私の住む世界によく似ているが、至るところにある浮かんだディスプレイが進んだ文化を感じさせる。


「すみません、急に走り出しちゃって……。

 ウチで話を進めた方がいいってなって…………。

 あっ、僕の部屋はこちらです」


 そう言って一室の扉の鍵を開ける。

 奥から「おかえりハヤト、友達?」という女性の声が響き、それに少年……ハヤトくんは「うん」とだけ軽く返す。


 そのまま「ハヤト」とネームプレートが浮び上がる部屋の扉に入るように勧められ、私はそのまま恐る恐る足を踏み入れる。


 そこはディスプレイがいくつも浮かび上がる、薄暗い空間。

 私の世界で言うパソコンのようなものなのだろうか……そんなことを考えるよりも前に目に止まるものがあった。


 それは歌い、踊る、男性のイラストの姿。

 たくさんのバラの花や宝石のアニメーションが投げ込まれ、その度に「ありがとう!」と手を振っている。

 それはアニメのようなそれではなく、その空間にまるで存在している……Vライバーの配信のようだった。

 ──異世界にもVライバーってあるの!?


「ね、ねえ!こ、これはなに……?」


 驚きと興奮の混ざった声で思わず聞いてしまう。

 そんな私の反応にハヤトくんは圧を感じたのか「えっ……と……」と困ったような声を上げる。


「これは『カミサマゲート』って言って……。神様の姿を配信するサイトです」

「カミサマ……ゲート……?」

「そう、ちょうどあなたにも関係があるので説明しようと思ってました」


 真剣な表情でまっすぐと見つめてくるハヤト。

 だが私の頭は新しいことでいっぱいだった。

 神様を配信って、やっぱりこの世界、どこか私の世界に似ているけど違う。

 それに、私にも関係があるって、どういう事なのだろう?


「正確には神様になりたい人が配信をして、トップになった人が神様になるサイトなのですが……今ちょうどライブしてる彼が今の『神様』ですね。

 そちらの世界の神様って、どんな存在ですか?」

「えっと……色々あるけど……。世界を作ったり、守ったり、ともかく世界で1番力を持ってて、偉い存在?」

「ああ、だいたい認識は近いんですね。

 ここ、イイネランドは『いいね』、たくさんの人にいいなって思って貰えた人が世界で1番力を持つ存在になれる場所なんです」


 ハヤトくんはそこからゆっくりと、私の世界では考えられない世界の話を教えてくれた。


「カミサマゲート」は私の世界における動画配信サイトに似ているらしい。動画投稿や生放送が可能なサイト。内容も雑談や歌からゲーム実況など私の世界と似ている内容ばかりだった。


 私の世界と異なるのはその「いいね」、高評価の扱い。

 この世界における「いいね」は数が重なると相手を神様にしちゃうほどの力を与えるらしい。

 この世界には使える人は多くはないけど魔法もあって、それも「いいね」が関係しているとのこと。

「いいね」には好きから溢れた魔力が詰まっててそれがいっぱい重なると色々な魔法が使えるようになる……って私の世界じゃ考えられないよ!


「それで、私が来たこととここのシステムがどう関係があるの?」

「……おそらくなんですけど違う世界から人を呼んだりできるのは今の神様、『ボイド』くらいだと思うんです

『ボイド』は好奇心旺盛でサプライズが好きな神様だから……」

「待って!この世界の神様ってそんなに力があるの?」


 自分の世界じゃ考えられないことに頭が追いつきそうにない、思わずストップをかけてしまう。

 ハヤトくんは私の様子を見て、ゆっくりと説明する。


「今の神様……『ボイド』は大人気の配信者です。

 思いつきでよくとんでもないことをしたりするけどそれがまた人気で……。

 だから『いいね』の数も他の人と比べ物にならないくらい多いんです。出来ることも多くて、それをまた配信するからさらに増えての繰り返しで……」

「それで思いつきで異世界から人を呼んだりしても許されるの?」

「許されるというか……この世界では『見てて楽しいこと』が全てですから……」


 とんでもないところに来てしまった。

 まず第一にそんな感想が出てきた。

 見てて楽しいことなら他人がどうなってもいいってこと?すごい価値観、それにそんな価値観の人間が『神様』をやっているということが私からしたら信じられない。


「ハヤトくん……だっけ、ハヤトくんはそれでいいと思ってるの?」

「えっと……。みんなが楽しいと思ってるなら……それでいいのかなとは……。」

「じゃあハヤトくんは『ボイド』の配信好きなの?」

「嫌いです。」


 即答だった。

 ハヤトくんは真っ直ぐな目で言っている、これは冗談では無いと分かった。

 ハヤトくんはそのまま続ける。


「あんなののどこがいいか分かりません。いい人も悪い人も見せびらかすし、興味本位で人に大きな影響を与える大きなことばかりやって、自分はいいところにいる。それで苦労してる人のことをなにもわかってない大バカ野郎ですよ。」

「あの、そこまで言わなくても……。」

「あっ……すみません、つい……。」


 暴言のような言葉が溢れたけど、ハヤトくんの目は相変わらず真っ直ぐだ。

 ただの悪口ではないんだなと感じさせる。


「びっくりしたけど大丈夫、話を続けて」


 そう、話を進めるようにいえば、次に出た言葉はもっとびっくりさせる言葉だった。



「『ボイド』は……僕のいとこなんです」


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