神様スタイリスト

客砂鈴

第1話 この状況、いいねですか?

「今日も『いいね』!!」


 リズミカルに今日もサムズアップのマークをタップする。

 スマホには動画配信サイトのとあるチャンネルの配信終了を知らせる画面が映っている。チャンネルには綺麗な男の子のイラストが掲げられ、それなりの数の登録者がいる。

 登録者数、「いいね」の数、その数値の上昇に思わず笑みがこぼれる。


 当然のように私、現坂夢望も登録している。彼は私の「推し」なのだ。


 世はVライバーの時代。

 Vライバー……バーチャルライバーはイラストや3Dモデルといったアバター姿で、キャラクターとして配信や動画投稿を行うバーチャルな存在だ。

 様々な容姿や設定を持ったキャラクターが生きてる様子をリアルタイムで見ることが出来る、それがVライバーの良さだ。

 個性豊かで漫画やアニメに居そうな存在である彼らが身近に感じられ、時に身近な話をする不思議な距離感。

 そんな面白さに、私は気付けば彼らの虜になっていたのだ。


「夢望、あと10分よ」


 配信の余韻に浸っているとふと、現実に引き戻される。

 振り向けば母さんが私の持つスマホに鋭い視線を向けていた。


「分かってるってば、ちゃんと返すって」


 私の家ではスマホの、特にインターネットの使用時間が限られている。

 母さんが言うには「中学二年生の夢望がインターネットに入り浸ると危ない!」らしく、一日のインターネットを見る時間は基本1時間程度の推しの配信時間だけにされている。その上、発信するにはまだネットリテラシー?が足りないとかなんとかでSNSもかなり制限をかけられている。


 意味が分からない、学校の人はSNSくらいみんなやってるしまだ早いなんて子供扱いし過ぎだと思う。

 もう私も14歳、自分で発信もしたいお年頃だ。何より私には、夢がある。



 それはVライバーのスタイリストだ。



 Vライバーにはスタイリストと呼ばれたりする存在がいる。Vライバーの容姿を作る人を指す言葉だ。個性豊かなVライバーの設定、何より華やかさを彩る上で重要な存在だ。彼らがバーチャルな存在である上で無くてはならない存在と言えるだろう。


 スタイリストになる上ではパソコンでの技術力や機材が必要になるがまず第一に絵を描く力、これがなければ話が始まらない。

 私は制限をかけられているから機材などに慣れるには時間がかかるかもしれない……が、その分絵に時間を惜しみなくかけている。

 そしていつか、いろんな人と繋がれるようになったらVライバーになりたい人の手助けとなるスタイリストになりたい。

 みんなを笑顔にするような個性豊かなVライバー、その大事なところを握る裏方になりたいのだ。


 そんな妄想を、夢を、今日も膨らませる。

 人気のVライバー達を見ているといつかここに並べる人をクリエイトするのだとやる気が出てくる。

 そうやって画面をスクロールさせる、今日はもう時間があまり無いから気になる人がいないか軽く探す時間にしよう。


 ふと、指が止まる。

 画面を埋め尽くすような大きなハートマークが突然、現れたのだ。

 広告かな?邪魔だな……。

 バツ印のついたボタンも見当たらない、どうにかして消せないものかと画面を触っているうちにハートマークに触れてしまう。


 すると、ハートマークが割れ、青白い光が溢れ出す。



『接続を開始します』



 無機質な男性の声と共に私の意識は遠のいた。




「──ますか」

「聞こえますか?」


 少し高い男性の声で目を覚ます。

 目の前には私と同じくらいの歳に見える背の低い少年が心配そうに覗き込んでいた。


「良かった、目を覚ましたんですね!」


 少年は安堵したように息をつくが私は何も分かっていない。


 ここは、どこ?


 どうも私は道端に倒れていたらしいのだがその道が見たこともないような場所なのだ。

 ガラスのような透明な材質に囲まれた通路。

 辺りを見渡せば高いビルに囲まれ、ディスプレイはアニメとかで見たそれのように宙にいくつも浮かんでいる。

 まるで近未来、まるで異世界だ。


「えっと……ここは、どこですか……?」


 恐る恐る聞けば、少年は不思議そうに答える。


「ここは《イイネランド》ですが……」


 少年は当然のような顔をして言った。

 当然ながら私は聞いたことない。

 なんだその名前は、なんだそのそのまんまみたいな名前は。

 何より……


「この状況は『いいね』じゃなーいっ!!!」


 思わずそう叫びたくもなってしまったのだ。

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