第5話 新たな土地は前途多難


 虹の橋を渡って三十分(死んではいない)。シルクのカーテンを超え、早一時間だが全然目的地に到着しない。普通なら直ぐに到着するであろうに、でも魔女達はずっと暗闇の中を歩き続けていた。


「真っ暗すぎて何もわからん。」


 イライラと腹を立てながらフクを肩に乗せ、自分の身の丈以上ある杖をカンッカンッと地面を突いて歩いていく。

 何があるのかわからないのだ、白杖のように使わないと目の前がわからない。


 すると、耳元で小蝿の羽音が鳴るように嫌な感じに囁き声が聞こえる。どこの誰だか、魔女に伝えようとしている意思だけは汲み取ろう。


「主様、奥の方からキラキラしたのがこちらにきているみたいです。」


「ん…?」


 目を窄めながら遠くにいる何かを見つける。鱗粉が宙を舞い、それが一筋の道となって現れた。大量の蝶だ。


 蝶の一匹が魔女の指先にとまる。綺麗な色をしたアゲハ蝶だ。フクはそう思ったが、魔女はまた別の見方をしていたようで…。


――グチュッ


 魔女は手に留まった蝶を優しく手のひらに乗せ、そのまま握りつぶした。鼻で笑いながら、とまる蝶を全て握り潰していく。羽がもがれ、蝶の体は勢いよく潰れる。


 なぜこの蝶を握りつぶすかって?

理由は簡単だ。あのバカ神の眷属であり情報を司る魔物であるからだ。それの名は【連絡蝶】だ。バカ神のネーミングセンスを疑う。


「あのバカ神が私達宛の何かを届けるために【転移】を一時中断したようだ。」


 悪魔的な笑みを浮かべている。しかも連絡蝶を握りつぶしながらだ。自分の主ながら、怖い表情が隠しきれていない。

 魔女はバカ神からの連絡蝶をこれ見よがしに殺していく。何だったら、あのバカ神を困らせてやると心の底から思っている。


 目が笑っていない魔女、それを隣で見るフクは先が思いやられ不安感に押しつぶされそうになる。この人は魔法が通用しない世界で生きていけるのだろうか、精神が壊れないだろうかと。


「大丈夫だ。フク。私にはお前がついている。お前には私がついていのだから。」


 いつもの優しい口調で魔女はフクに話しかけてくれた。その声でフクが感じとった不安感を払拭させる。長い付き合いをしているから、ちょっとしたことを感じ取れた。


「ただのストレス発散じゃ。」


 にこやかな笑顔でそう言う魔女を止められるものはいなかった。



 バカ神の眷属「連絡蝶」から得た情報は【条件を破った場合の補足】と【転移後の生活について】の二つだった。簡単に言うと条件を破れば、マグノリアを含めた日本人全員が魔女と過ごした記憶を強制的に削除されるというもの。


 だから、異世界から日本へやってきたことが明るみに出ないように魔法は使用禁止。これを守って日本生活をしなければならない。

でもこの制約の中、どうやってマグノリアと話せばいいのかと疑問が残るが今後の私がどうにかするだろうと先伸ばしにした。


 また神が言うには約一年間、目的達成まで居住する家と仕事先を既に準備しているらしい。どういう手を回したのかはわからないが、そこを拠点に活動していくことになった。

 他にも言葉がわかるように読み書きができるようにしてくれているそうだ。あのバカがみにしては気がきいている、いや効きすぎている。


「あのバカ神にしては用意周到すぎる。」


 と勘繰ってしまうが今はそれどころではない。衣食住のうち一つでも欠ければ生活が厳しくなる。それを知っている魔女は神を疑いながらも有効活用するほかない。

 

 これから過ごす日本は自然豊かな国なんだそう。発展している都心部は交通の便や買い物などしやすいが、今回魔女が生活する拠点は「ド田舎」。山に囲まれ、目の前には海岸があり子供達の遊び場だ。

 ただ寂しいことに過疎化が進み、高齢者が比較的多い地域なのだそう。ここで約一年を過ごすことになる。

 

「田舎か。ウェラリアから考えると王都から離れた辺境伯あたりぐらいのレベルだろう。」


 マグノリアが治めていた王都【リア】。ここを中心に大陸のほぼ八割を統治していた。そして彼女と魔女が信頼を置いていた一族が辺境伯として敵国との国境を守護していた。世界樹からも近いため、よく遊びに行ったがその土地の雰囲気が似ている。


 そして魔女がこれから働く場所はデイサービス。神が連絡蝶に詳しく情報を乗せてくれていた。それがこれだ。


 通所型老人施設だ。簡単に言うと学生のように午前九時から午後五時まで利用し、その間入浴や食事、レクリエーションをするといった具合だ。ただ、ここのデイサービスを利用する人たちの目的は人よって違う。


―――魔女はこれからここで働きながら親友と会うために準備を整えることになる。

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