#02 ズレの正体

 私が片づけ音痴だと気づいたのは家族でした。

 自分の机、それがもらえたのは小学一年生になった祖母からのお祝いで、祖母は孫全員にこの贈り物をしていました。うちは狭いので、昭和のスタンダートな収納机。机も椅子もパタンと収納できるタイプのもので、収納した状態にすると長方形の箱型になります。上には本棚がつき、椅子の中にも収納スペースがあり、閉じればそのスペースは空間になり有効利用できる優れモノでした。

 当時持っていた小物だとか、教科書なんかを母は絨毯の上に並べ、「使いやすいように片づけなさい」と私に任せたそうです。


 わたしはすっごい嬉しかったのだけは覚えています。自分だけのモノ、その響きがどんなに素敵なものか! 部屋は姉と一緒だったし、いろいろなものはおさがりでした。それを不服に思ったことはなかったけれど、自分に特別に与えられるモノはやっぱり嬉しかったですね。机っていうのに、というか机で何かを書いている姿ってのに異様に憧れていました、その頃。

 姉がとっても大人に見えて、羨ましくて。わたしは姉の机で何かをしたくて、引き出しもなんだか開けたら不思議なことが起こりそうな気がして。

 すっごく興味深かったんですけど、わたしがかき回しちゃうから姉には「触っちゃダメ」宣言をされていました。引き出しも。

 なんで? と尋ねると「大切なモノが入っているから」と言われ、それで手が出せなかったんだと思います。そんなふうだったから、自分の机をもらったとき、そりゃーもう、大喜びでした。


 が、5分もしないうちに、わたしは母に付きまといだしたそうで。

 「終わったの?」と聞けば「終わった」と言う。

 それじゃぁ、と母は見に行き、盛大に溜息が出たらしいです。

 母は一気に不満をぶつけたくなったけれど我慢をして、優しそうな声を意識して尋ねたそうです。


「どこが片づいているの? 片づけるっていうのは、机の上には何もなくて閉められるようにしないとでしょう? まずね、机の上に出しっぱなしのこの小物、これは捨てるものなの? こういうのは引き出しにしまうものでしょう? ひとっつも減ってないでしょ? どんな入れ方をしたって、4つも引き出しがあれば全部入ります!」


「だってもう入らないんだもん」


「なに馬鹿なこと言ってるの? こんな大きな引き出しに、あんた何入れたの!?」


 母はすぐさまバトルモードに突入したそうな。

 ガバっと引き出しを開けてみて、言葉を失ったらしいです。そのまま2段目、3段目と開け、ほんっきで私になんて説明すればいいのかと悩んだとか。


「本はね横に置くものじゃないのよ? 本は立てるものなの。引き出しにしまう馬鹿がどこにいるの!!」


「だって引き出しは大切なモノをしまうんでしょ?」


 当時私が一番大切にしていたのは3センチほどの厚さの、背表紙のしっかりしたA4の大きさはあったかなぁの童話集でした。シリーズで7、8冊持っていたんだけど、それをどうやら引き出しにしまってみたらしいです。1番上の引き出しは浅いから1冊でいっぱい。2段目からは2冊とか3冊をどうにかして入れたらしく。なるほど、引き出しに大きな本をしまい込めばそりゃスペースは残っていないでしょう。


 どうにかこうにか本棚に本はしまうことを了解させて、次の段階に突入。

 机にも本とかノートを立てかけるスペースがありました。そこに私は教科書を置くことにしたらしいのですが……。


「こーゆーのを立てるときはね、揃えるものなの。お姉ちゃんの机を見てごらんなさい。揃っているでしょう?」


 まぁ、普通、背の高い順からとか見栄え良く並べますよね。わたしはぐちゃぐちゃだったそうです。


「揃えてるよ!」


「あんたって子は!!」


 母、怒り爆発。


「これのどこが揃っているの? 言ってごらんなさい」


 逆上している母を相手にわたしは真剣に言ったらしいです。


「こっちから好きな順」


 そう、わたしは椅子に座ったまま取れるところから順に好きな教科の教科書を並べていたそうです。ものぐさ根性はその時にもう育っていたみたいですね。

 ですから背の高さはちぐはぐで、厚さもなにもかもかまっちゃいません。ただ本当に好きな順に並べていたらしいです。見栄えも何もかもおかまいなしに。


 母はわたしの行く末を本気で案じたと言います。なんとかかんとか普通の机に見える程度まで修復させましたが、私が返した言葉は納得していないのがわかるものでした。私は自分の考えを曲げないガキでした。曲げることが大嫌いでした。曲げなければいけないときは何か言わずにはいられなかったのでしょう。


「お母さん、言うとおりに直すけど、本当は私はこのままがいいと思う。好きなものをすぐに取れるように並べられないなんて、見栄えを気にするほうが違うと思う」


 ってなことを言ったらしいです。散々バトルって、泣きわめいて、直すと言った後に。あんたが直しなさいと言われると、わたしは間違ってない、みんなのやり方が悪いと正当化するあたり、もう出来上がっていましたね。けれど反動か、年を重ねるにつれて、気の小さいしめちゃくちゃYESマンになりました。


 元の場所に戻すことはするんですけど、片づける根底が自分勝手なわたし。年をとった今、人になるべくなら不快感を与えないように片づける努力はしているけれど、元が元のせいか、今もできている気がしません。


 

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