Mission106

 鉄道の経路が決まれば、そこからのアリスの行動は早かった。すぐさま国王に許可を取りに行き、ソルティエ公国までの街道に沿うような形で国境の街まで線路を敷きに出ていった。

 まったく、元おばあちゃんもかなり張り切っているようである。

 ここまでさんざん鉄道を敷設してきた事もあって、ソルティエ公国までの国境までの線路は、あっという間に敷き終えてしまっていた。ちなみにソルティエ公国の国境までは6日ほどの距離がある。

 だというのに、そこまでの線路がたったの4日で敷き終わってしまったのである。この元おばあちゃん、張り切り過ぎである。

 ちなみにだが、国境の地点の線路の終端はマスカード帝国に向けて敷いた時と同じで、国境の壁にぶつかったところで線路が途切れている状態となっている。

「ただいま戻りました、マイマスター」

「ご苦労だったね、アリス」

 戻ってきたアリスを労うギルソンである。

「それで、途中の街の反応はどうだったかな?」

「はい、すでに国内には2つの路線が敷かれていますゆえ、ようやく我が街にも来たかと、町長たちは歓迎している様子でした。駅の設置にも実に協力的でした」

「そうか。それはよかった」

 アリスからの報告に、ほっとした様子のギルソンである。

 しかし、問題はここから先である。

 ソルティエ公国に入ると、さすがに事情が変わってくるのだ。そこから先、公国の首都まではさらに7日間の道のりが待ち構えている。

 一応、使節団との間でルート選定をしたとはいえ、正式に敷設工事を始めようとするなら大公の許可が必要になる。

 アリスが国内の敷設を行っている間に、ギルソンは大公に宛てての親書を認めていたのだが、どうにも文章がうまくまとまらずにいまだに親書を送れずにいたのである。

「マスカードの時とは少々勝手が違いますからね。ボクではうまく文章をまとめ切れないようです。ここは父上に頼むとしましょうか」

 国家間同士の取り決めなのだからと、ギルソンは父親である国王へと相談に向かったのだった。アリスもそれについて行く。

 ちなみにだが、ギルソンの王位継承権の放棄の宣言から、シュヴァリエとの間の確執は少し影を潜めるようになっていた。だが、相変わらずシュヴァリエは警戒をしているようで、アルヴィンをギルソンの監視に差し向けているようだった。

 そんな背景があって、ギルソンは一人で行動する事はない。アリスが鉄道の敷設に出ている間は、第四王子であるアワードやそのオートマタであるフェール、もしくはイスヴァンとそのオートマタであるフラムの誰かと一緒に行動をしていたのだった。用心に越した事はないのである。

「父上、失礼致します」

「うん? どうしたんだ、ギルソン」

 国王の執務室へとやって来たギルソンを見て、不思議そうな顔をしてる国王である。なにせギルソンは、国王の子どもたちの中では一番しっかりしている。そのせいでか、自分のところにやって来るイメージというものがまったくない国王なのである。

「父上、相談があって参りました。少々よろしいでしょうか」

「ほう、ギルソンが相談とな。どれ、話してみせなさい」

 しっかりしている息子に頼られているとあってか、国王はいつになく気合いが入っていた。

 ところがだ。そのギルソンから寄せられた相談に、国王の表情がもの凄く曇った。

「ソルティエ公国に信書……か」

 顎を触りながら、苦い表情をしている国王である。

「はい、いざ書こうと思いましたら、どうにもうまく文章がまとまりませんでして。ボクが思うに、まだソルティエ公国とのつながりがないために、うまく言葉が選べないためだと思うのです」

「ふむ……、それは確かにあり得ると思うぞ」

 ギルソンの推論に、国王はものすごく納得がいってしまう。物事がしっかりと判断できるギルソンを見て、国王は息子のために一肌脱ぐ事を決めた。

「分かった。この私が代わりに一筆取ろう。鉄道の事でソルティエ公国の大公宛てに一筆認めればよいのであろう?」

 さすが国王というべきか、相談に来た事情をしっかりと汲み取っていた。これだけを見れば立派な父親である。

「はい頼みます、父上」

 父親である国王の言葉に、頭を下げてお願いするギルソンだった。

 部屋を出て行くギルソンを見送った国王は、早速筆を執る。大公とはそれなりに面識があるために、国王の筆に迷いはなかった。

(息子の頑張りに応えられなくて、なにが父親だろうかな。本当に末子として軽く見ていたが、一番立派に育ってくれて私は嬉しい限りだよ)

 国王はつい感慨深くなって泣きそうになっていた。

 しかし、今は手紙を認めている真っ最中だ。涙をこぼすわけにはいかないのである。ただ、息子の頑張りを支えるべく、一筆一筆に思いを込めながら書き進めていった。

「すまないが、誰か居ないか?」

「お呼びでございますでしょうか、陛下」

「うむ、この手紙をソルティエ公国まで無事に届けてほしい。両国の未来を左右するかも知れぬものだ、確実に届けてくれよ?」

「はっ、畏まりました。必ずや届けてみせましょう」

 国王から手紙を受け取った兵士は、すぐさまソルティエ公国へと向けて馬を走らせたのだった。

「少しは父親らしい事をできたかな?」

 椅子に深く腰掛けた国王は、天井を見上げて物思いにふけるのだった。

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