Mission107

 ソルティエ公国へ鉄道路線を整備するという話は、あっという間に大公の耳にまで届いた。

 国境まで鉄道が敷かれて公国との往復が約半分になったために、思った以上に早く返事は国王の元に届いたのだった。

「おお、戻ったか。さすが国境まで路線が延びただけに早いな」

 国王はかなり前のめりに反応している。その国王の反応に驚きながらも、戻ってきた使者は大公からの返事を国王へと渡したのだった。

 それを取り上げるかの如くの勢いでその手に掴む国王。いくらなんでも興奮し過ぎである。

 大公からの返事を確認した国王は、体を震わせていた。

「陛下、いかがなさいましたでしょうか?」

 周りが心配になって声を掛けている。黙り込んだまま体を震わせているのだから、気になって当然だ。

「うむ、首都までの鉄道路線の敷設の許可が出た。すぐにギルソンとアリスを呼んでくるのだ。今すぐだ!」

 ものすごく興奮している国王である。その様子に、兵士は慌ててギルソンの私室へと走っていく。途中で一回こけたようだが、無事にギルソンたちを呼べたようである。

 しばらくすると、国王の下にギルソンとアリスが揃って姿を見せた。

「お呼びでしょうか、父上」

 ギルソンが跪いて発言する。一方の国王の方はまだまだ興奮しているようだが、どうにか落ち着こうとして深呼吸をしていた。

「うむ、ソルティエ公国に鉄道敷設に対する許可を求めたのだが、その返事が先程届いたのだ」

 もったいぶるように言う国王だが、興奮している状態では結果は丸分かりである。だが、ギルソンもアリスも、国王を立てるためにただ黙って次の発言を待つ。

「それでその返事なのだが、首都までの建設の許可が出たのだ。実に喜ぶべき事ではないか。我が国の事業が他国にどんどんと認められていっているのだからな」

 国王の鼻息が荒すぎる。

 そんな国王に対して、ギルソンは実に落ち着き払っていた。

「それは喜ばしい事でございますね。ポルト公子とマリン公女にも話を通した上で、ソルティエ公国の首都までのルート選定に本格的に入ります」

「うむ、頼んだぞ、ギルソン」

 ギルソンとアリスは立ち上がり、国王に深く頭を下げて自分の部屋へと戻っていった。

 その息子たちの姿を見送った国王は、ようやく落ち着きを取り戻したようだった。


 部屋に戻ってギルソンとアリスは、必要なものだけを持つとポルトたちに会いに再び部屋から出る。

 そして、ソルティエ公国の人間全員を相手にしながら、鉄道路線の経路を決めたのだった。

 結果としては、以前から話に出ていたメインとなる街道に沿うような経路になった。

 話がまとまると、早速アリスは単身出掛けて行く。これまでも散々やってきた事なのでもう手慣れたものだった。ただ、魔力の温存のためか、国境までは鉄道利用での移動だった。

 アリスの帰りを待つ間は、ギルソンはアワードやイスヴァンと行動を共にしていた。相変わらずシュヴァリエからの感情がよくないためである。アルヴィンが襲い掛かってくるような事は無くなったものの、この関係の改善はまだまだ時間がかかりそうである。


 アリスが鉄道建設のために出掛けている間、ギルソンは国内の案内を兼ねてポルトとマリンの二人を従者ともども鉄道に乗せるために王都の駅に連れてきていた。護衛にはアワードのオートマタであるフェールを連れてきてた。

「へえ、これが鉄道というものなのか。なんかすごくかっこいいな」

 ポルトに関してはどうも好感触のようである。イスヴァンもかなり魅せられていたので、男性には受けがいいのかも知れなかった。

「今回は一両貸し切りですからね。早速乗り込むとしましょうか」

 ギルソンが取り仕切る。そして、ポルトたちを連れてツェン行の列車へと乗り込んだ。

 今回の目的地は鉱山の街ツェンである。やはり国内最大の目玉であると言って過言ではないだろう。ツェン産の鉱石はそのくらいに評判が良いのである。

 はしゃぐ様子を見せるポルトに対して、マリンの方は反応が乏しかった。

 だが、ひとたび列車がツェンへ向けて出発すれば、そのあまりの速さに二人を含めてソルティエ公国の人間はみんな驚いていた。

「今アリスが建設に向かっている鉄道ですが、完成すれば5日間かかっていた道のりが5時間にまで短縮されます。実に素晴らしい事だと思いませんか?」

 ギルソンがこう言うものの、ソルティエ公国の人間は誰もが理解できずにいた。

「ボクたちが向かっているツェンの街ですが、昔は馬車で10日もかかっていた場所です。それが、今は鉄道でたったの10時間、途中の停車時間を入れても1日掛からないほどに短縮されてしまったのですよ」

 ギルソンが説明を続けると、ポルトたちは開いた口が塞がらなくなっていた。そのくらいに信じられない事なのである。

「これだけ時間が短縮されれば、公国とも交流が盛んになると思います。実に喜ばしい事だと思いますよ」

 ギルソンはにっこりと微笑んでいた。

 驚くポルトたちを乗せた列車は、定刻通りツェンの街に到着したのだった。

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