Mission105
いろいろと警戒していたソルティエ公国のポルトとマリン。しかし、マリンの方は思ったよりも早くファルーダンでの生活に馴染み、ポルトの方も最初に比べれば少々和らいだ感じだった。これから学園に通う事になるのだから、さすがに問題を起こす気がなくなってきたのだろう。
顔を合わせて話をさせたのが影響したのだろうか、マリンはリリアンの事をお姉様と慕い始めていた。ソルティエ公国から見ても危険視しているマスカード帝国の皇子イスヴァンと婚約したというのが、かなり影響したものだと思われる。
何にしても、敵対的な雰囲気が和らいだのは今後に大きな影響を及ぼすものと思われる。
さて、学園の方に目を向けてみると、今は1年の半分を過ぎた時期であるがために、学園に通うにはまだ半年という長い期間があった。
ポルトの方は年齢を満たしているので、その気になれば今すぐにでも学園に入れる。その一方で、勉強に関して半年遅れというビハインドを背負ってしまうという問題があるのだ。しかし、そこは先輩となる人物が居るのでフォローはできるだろう。そこは本人たちとの話し合いで決定する事になった。
その一方で、ギルソンとアリスの元に、ポルトとマリンについて来ていた一部の人物たちが接触してきていた。
「ええと、あなたたちはソルティエ公国の方たちですね。ボクたちに何の用でしょうか」
ファルーダン王国にやって来てひと息ついた段階での訪問である。その事もあってか、ギルソンも落ち着いて対処をしている。
予想外に落ち着いているギルソンの態度に、ソルティエ公国の使者たちは驚き戸惑っていた。マリン公女と同い年と聞いていたので、どこか舐めてかかっていたようである。
このギルソンはあのマスカード帝国との交渉もしっかりと成し遂げているというのに、このソルティエ公国の人間たちはそれを知らなかったようである。
「マイマスターはマスカード帝国の皇帝とも交渉をされたのです。あなた方相手に怯むわけがござません」
アリスも落ち着いた表情でソルティエ公国の使者たちにきっぱりと言い放つ。これにはこの使者たちは戸惑いが隠せずにおろおろとしていた。さすがにこれでは交渉とはいっても一方的なものになってしまうのは確実だった。
しかし、ギルソンは実に落ち着いていた。一方的な交渉をしてしまえば、相手国との関係性は悪化する可能性がある事をしっかりと認識していたのだ。
小説においては性格が早い段階で破綻していてよく分からなかったものの、ギルソンにこんな能力があるとはアリスも驚かされたものだった。その能力を散々見せられた今となっては、もうそういうものだと落ち着いて見ていられるのである。それが先程の態度にもよく表れていた。
「落ち着いて下さい、ソルティエ公国の皆さん。ボクがこれだけ落ち着いているだけでそんなに慌ててしまっては、使者としてはどうかと思われます。とにかく落ち着いて下さい」
落ち着く事は大事なので、ギルソンは二度口にしていた。そして、使者たちが落ち着くまでにこにことして待ち続けていた。
ようやく使者たちが落ち着きを取り戻し、ギルソンとの交渉が始まる。
予想はしていたものの、ソルティエ公国も自国までの鉄道路線の建設を望んでいるようだった。
ファルーダン王国の鉄道事業というものが、周辺諸国にかなりの衝撃を与えたというのがよく分かる話である。
当然ながら、ソルティエ公国まで鉄道の建設となればその見返りを求める事になる。
ただで建設してもらおうなどという甘い考えは許さないギルソンである。
12歳の少年を相手に、いい大人たちがいいようにあしらわれてしまっている。冷静に立っているつもりのアリスだが、内心の呆れがしっかり顔に出てしまっていた。
結局この交渉は、一方的にギルソンの意見で進められていってしまった。それでもしっかり相手に譲歩するあたり、抜け目のないギルソンだった。
国家間交渉とはいっても、商売の取引みたいなものである。一方的な交渉をして相手を潰してしまっては意味がない。それなりに相手にもうまみを持たせないと、継続的な付き合いというものはできないのである。
ギルソンはソルティエ公国の話を聞いてからというもの、可能な限り公国の情報を調べ上げていた。そして、それに基づいて、今回の交渉をやり切ったのである。本当に12歳というのを疑いたくなる結果だった。
ソルティエ公国の使者たちも悪くはない結果なだけに満足している様子であり、同席していたアリスは、ギルソンの才能に恐ろしさというものを感じていた。
「ではアリス、早速公国の都と鉄道をどう結ぶか、経路を考えましょうか」
「畏まりました、マイマスター」
交渉が終われば、すぐさま鉄道の話に入るギルソンである。本当に行動が早い。
公国の使者たちとの話し合いを行い、公国との間でどのような経路で鉄道を敷くのか詰めていったのだった。そのための話し合いは実に数日間にも及び、鉄道を敷く経路は仮決定したのであった。
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