Mission005

 ギルソンとともに食堂へやって来たアリス。扉の前に立つと、アリスは扉を叩く。

「ギルソン殿下と従者アリスでございます」

 こう呼びかけると、食堂の脇に立っていた衛兵が確認をして、それが終わると静かに扉が開かれた。

 扉が開くと、貴族邸などでよく見られるとてつもなく長い長方形のテーブルが置かれていた。正面の席が空席なので、国王アルバートと王妃ダリアはまだ来ていないようである。

 食事の席に着いていたのは、7人居る子どものうち、次女と三男を除く4人のようである。まだ来ていないのは朝が弱いのだろうか。アリスは無表情のまま、妙な事に思いを巡らせていた。

 ギルソンの家族は次のような構成だ。


 まずは現国王アルバート・ヴァンド・ファルーダン。年齢は40歳。苦労人なせいか、少々白髪が混ざっているいい年のおじさんだ。妻は正妻一人だけである。金髪と銀髪の間のような色なので、白髪は混ざっているが髪色的には目立たない。瞳の色は翡翠である。

 その妻である王妃ダリア・ファルラ・ファルーダン。年齢は36歳。側室が居ないので一人で7人の子を産んだという事になる。明るい赤色が少し金がかっていて、瞳は深い青色だ。

 第一王子アインダード・オーロル・ファルーダン。年齢は15歳。婚約者は居る模様。ただ、性格に少々難がある。髪は父親、瞳は母親に似ている。

 第二王子シュヴァリエ・ギルバス・ファルーダン。年齢は12歳。上の兄が少々わがままなせいで、とばっちりを受けてきた苦労人。性格はずいぶんと優しい。髪も瞳も父親と同じである。

 第三王子スーリガン・ブロリエ・ファルーダン。年齢は9歳。性格はおとなしめと思わせて裏では腹黒い。ギルソンが狂う原因の一人。父よりも銀髪に近く、瞳は父親と同じ。

 第四王子アワード・エルディリオ・ファルーダン。年齢は7歳。部屋は隣だが、ギルソンとはどういうわけか疎遠。母親と同じ髪色と瞳である。

 第一王女フランソワ・アイシェ・ファルーダン。年齢は13歳。わがまま姫という言葉が合うくらいにはわがままに振舞っているが、家族思い。髪色は父親よりだが金髪が強め、瞳は母親に似ている。いわゆる金髪碧眼に近い。

 第二王女リリアン・シルビエ・ファルーダン。年齢は10歳。甘えん坊で特に姉のフランソワにはべったり気味。朝がとても弱い。髪色は母親、瞳は右が父親、左が母親のオッドアイである。

 ちなみにギルソンは、母親の髪色に銀髪が混ざった感じで、瞳は母親と同じである。


 小説で書いていた家族構成と魔法石に記憶されている家族構成を照らし合わせ、簡単に説明するとこんな感じである。こうなってくると第二王子以外の王子がすべて破滅の原因にすら思えてくる。

(あの小説の主人公は第二王子のシュヴァリエだったものね……)

 小説の舞台は今から8年後、ギルソン13歳の時の事だ。20歳となったシュヴァリエが王国の安定のために婚約者であるヒロインと一緒に活躍するという王道もので、その中盤の山場で対峙するのがギルソンである。家族から疎遠にされて絶望へと陥ったギルソンが、自分のオートマタとともに反乱を起こし、死闘を繰り広げながらも最後は制圧された。その最期の状況こそが冒頭のあの場面である。

 アリスはいろいろな事を考えながらも、真顔で直立している。オートマタでありギルソンの侍女なのだから、黙って見守り続けなければならない。オートマタなら苦ともしないこの状況だが、なまじ人間の魂が入っているがために地味につらかった。すっかり悟りきっていた晩年のアリスなら問題なかっただろうが、20歳代まで若返っているがためになおさらである。

(機械って、こんなつらい状況によく文句も言わずに我慢し続けられるわね)

 アリスは周りのオートマタをちら見ながら思った。体の前で手を合わせ、目を閉じて直立不動で佇む他の王族のオートマタたち。まるで飾り物の彫像のようにじっとしているのである。

 しばらく待っていると、遅れていた第三王子スーリガンと第二王女リリアンの二人がやって来た。これで食堂に王族の子ども全員が揃ったのだが、リリアンはとても眠そうにしている。魔法石に記憶された事前情報通り、とても朝が弱いようである。

「うむ、全員揃ったな」

 一番最後のリリアンが到着すると同時に、国王アルバートと王妃ダリアが揃って登場する。状況からするに子どもたちが揃うまで待機していたようである。

 食堂には王族9人とそのオートマタ9体、それと給仕を含めた使用人複数名が居る。さすがに大家族なゆえに、相当な人数になってしまうものだ。ただ、これが食事の度に見る事になる光景である。アリスもしっかり慣れなければならなかった。

 こうして全員が席に着いたところで、朝食が運ばれてきた。パンとスープとサラダに水。王族の食事の割には少々質素のようにも思える内容だった。せめて肉が欲しいところである。一日の始まりである朝食は大事なのだ。

 気になるところではあるが、王族の食事中はただ黙って見守り続けなければならない。悲しいかな、これが使用人のルールである。アリスはとにかく口出ししたい気持ちを抑えて見守っていた。

 さて、肝心の食事だが、会話がほぼない。黙々と食べるだけだった。黙食が悪いわけではないが、これが家族なのかと思えるくらい静かだった。昨日あれだけギルソンに話し掛けていた国王も一言も発しなかった。

 ちなみにアリスは昨日の夕食の事はまったく覚えていない。それくらい転生したばかりで気が動転していたのだ。なので、正直この光景には面食らったのだった。

 そして、結局喋ったのは勢揃いの時の国王の確認と、食事の前の祈りの時だけで、その後は一言も会話は無く朝食が終了。その後はそれぞれのオートマタに今日の予定を確認して解散となった。

「アリス、ボクたちも行こう」

「畏まりました、マイマスター」

 食事の片づけは給仕の使用人に任せ、アリスとギルソンは食堂を後にしたのだった。

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