010 摩力(後)
手のひらを起点に風を送り込むことを確認するのは容易だったが、有効な使い方が思いつかない。左手の方が風力が強くて、右手の方は気流の操作が効きそうには感じる。
相手に衝撃波を当てて弾き飛ばしたり、これで空中浮遊したりするのは、ヒーローじゃないと無理らしい。
足元の埃を吹き飛ばすには使える。(人間ブロワーかよ)
落ち葉の季節に活躍できそうだ。
それとは別に、気を澄ますと動くモノの気配が分かる気がする。もやもやした感じだが……。
ぱぁーん。
それは両の手の平を打ち合わせて音を立てただけではない。摩力を放出する手の平を勢いよく合わせたのだ。摩力が勢いよく十方に放たれる。
これは幼児たちだな。ねえちゃは走っては立ち止まりを繰り返している。弟くんは姉の後を付いて行って、それを真似している感じか。
アクティブソナーだ。大気の振動でも感じ取っているのだろうか。
うーん、風属性の摩法か。エアロ系とかバギ系とかが思いつくが、風でダメージを与えられる理屈が分からん。転ばすことはできそうだ。だが、切り刻んでるよな……プレイ時は気にならなかったが、それは出来そうにない。
そもそも、固体や液体に対して気体は、同一体積中に千分の一程度の分子量しかないはず。衝撃エネルギーが速度と質量に関係するなら難しくないか。
発散ではなく、収束させるか。微小の穴から水を噴出して金属を加工する方式だ。
それは置いておいて、最大の発散はどのくらいなのだろう。
危なくないように、何もない畑の真ん中に移動して、下向きに風を放出する。
極地的な
「おおーっ、おっ?」
範囲と勢いを見るに、ちょっと手ごたえがあったかも。
うん?
これは!芋だ。取り残した分があったようだ。
「おおーい、二人ともちょっと手伝ってくれ」
姉弟が転がるように走ってくる。
二人に芋をつまんで見せる。直径3-4cmほどの小粒だが、見渡すと予想外に数がありそうだ。
「「おおーっ」」
小さい子はよく動く。
畑の土が飛ばされてできたクレーターの縁に埋まる小芋を拾っていく。耕した土がすべて避けられた感じだ。元通りにするのが大変だろう(すでに他人事)
見つけてきたカゴに入りきらないな。
「うん、どうした?」
シャツの裾を引っ張るねいちゃに尋ねる。あぶねー、危うく、土だらけの手で頭を撫でるとこだった。
ねいちゃは隣を指さす。
なるほど、隣でも同じことをやれと……しっかりしてんな。
姉弟を退避させてから、要望に応えて、再び畑に
ドロップアイテムは小芋だ。
芋を収穫するのは集めるのが楽しそうな姉弟に任せて、ラザロは収穫した芋を土のついたままに家屋に運び込む。
中腰になったり、しゃがんだりを繰り返すのは、身体の左右のバランス障害を持つ身としては厳しい作業だ。それに幼子に力作業を求めるのもどうかと思う。
「いっぱい採れたか?」
姉弟が両手に芋を持って目を輝かせている。これは言わずにはいられない。
「早速、食べてみるか?」
「「うん!」」
良い返事だ。
食べる分だけを持って水場に移動する。
「芋を洗ってくれるか」
手を洗わせるついでに、ヘチマたわしで芋を洗わせる。
その間に敷布を取り込む。この日差しだと、帽子も必要か?
パンツ替わりにしていたタオルもよく乾いている。
弟くんはヘアバンド巻きで、ねえちゃはターバン巻きにしてみた。
「似合っているな」
ちょっと親バカな発言だが、その通りなのだから仕方ないだろう。
ついでに水車の水の落ち口に仕込んだカゴを覗く。
朝の水汲みの際に軽い気持ちで仕掛けておいたのだが、小指大の小魚が数匹跳ねていた。
ペティナイフが欲しいと呟きながらも、その小魚に見合わない首切り包丁で内臓を取り除き、開いて干す。
塩がないので、顆粒だしを軽く振ることを忘れない。(鳥ガラ、顆粒だし、味噌と醤油にケチャップ、それといくつかのチューブ類はあるし、塩と砂糖は非常時の味付けには使わないだろう)
「おしゃかな」
あっと言う間に広げられた数匹の魚に姉弟が目を丸くする。
「小さいが、おやつくらいにはなるだろう」
そう聞かされて、にぱーと笑顔が広がる。
これだけ小型だと素揚げにしたいが、知らない魚だ。内臓は抜いたほうが無難だと思う。幸いにも捌いている最中に手がしびれるということもなかったし、食べても大丈夫だろう。
「その前にお芋が待ってるぞ」
「おっいも、おーいも♪」
ラザロに会ってから、食べるものができて、本当の笑顔が戻ってきた。
芋は小振りなので皮は剥かずに半割にして、水で戻しておいた乾燥大豆とウインナー缶を混ぜて、ケチャップにチューブ生姜を少々足して煮込んでいく。
大豆はあらかじめ湯がいて、アクを取り除いた。終いに片栗粉替わりに嚥下補助のトロミ調整食品を一袋2.5g投入する。
幼子たちは赤いスープをみて、昨日のトマト染みのついたタオルを首に挟んだ。
それらの作業はラザロが椅子に座りながらだ。幼児たちにも調理の様子は見える。恐らくこの釜戸は調理用ではなく、別用途で使われていたものだろうと思う。
「よく噛んで、食べるんだぞ」
保存食と言っても、単身者のそれだ。量も知れているし、なにより
芋が充分に収穫できたとは言え、実状は厳しい。乾燥豆は水に付けとくと発芽するのはあるが、結局はカビが生えて終わりそうだ。そこまでここに長居するつもりもない。
食事時には、幼児たちに食べることに集中して欲しいので話しかけるのは、ココアをふぅふぅしながら飲んでいる今だ。見ているだけで和むので、まったりと眺めていたいがそうもいかない。
「ねいちゃとじぇいが昨日、僕と会った時、森で何をしていたのかな?」
二人は身体をこわばらす。
「怒らないから、言ってごらん」
「ほんとに?」
上目遣いでこちらを探る。
「食べ物を探してた」
「あぶにゃいから、森にいっちゃだめだって」
やっぱり、親に止められていたか。それと猫属性が弟くんにもあったか。(姉弟は人種です)
「でも、魔獣いなかったもん。朝のちょっとの時間だけだもん」
やっぱり、いるか魔獣。幼児二人には、ぜんぶ危険生物だろ。それに森は大人でも迷ったりするし、慣れが必要だよな。
「大丈夫だよ、怒ってないから。でも、これからは危ないから二人だけで行くのは止めようね」
葛藤しながらも頷いてくれた。
「……」
……無言の時間。
「教えてほしいんだけど、魔獣って食べられるの?」
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