第19話 芦花

干支町の消費量が多いもの?

干支町は特に名産品があるわけでもない。

農作物も工業製品も目立ったものはない。

イブキトラノオが一番有名なくらいだ。


「干支町が日本一なものある?」

「一人当たりの消費量だからね。干支町の特徴を思い浮かべれば分かるわよ」

「干支町の特徴? それはもちろん女性しかいないことでしょ?」


令和も末期の日本人。

ライフスタイルも平成とは大きく変わってきた。

結婚や出産に対する見方も変化し、生涯未婚の人も増えてきた。

従来のような家庭を絶対とする見方に疑義を唱えることも多くあった。

そこで提唱されたのが女性だけの町だった。


「そう、町を女性だけにして社会生活が維持できるか。社会実験として運用されている町よね」


外部との公共交通機関からは遮断。

自家用車で出入りすることになるが、町外との出入りは検閲が入り男性は追い出される。

イブキトラノオの芸盗ショーがあるときにやたら渋滞するのはそのせいともいえる。


「私は政治的なことはよく分からないけれど、町としてはうまくいっているんじゃないの?」


実験はそこそこうまくいっていると言える。

目立った問題はなく、干支町の存続が危うくなったような話はない。


「そうね。うまくいっていると思うわ。そんな干支町の一人当たりの消費量が一番多いものは?」

「もしかして……」

「もしかして?」

「生理用品?」

「正解!」


干支町には男がいない。

女しか消費しないもの。


「で、生理用品がどうしたって?」

「干支町はね、ナプキンの消費量が多いの。だからナプキンの研究生産工場が近くにあるのよ。たくさんの人にテスターしてもらえるようにね」

「……そういえば聞いたことがあるわね」

「今回足場に使った吸水性ポリマーは、そんなナプキンの生産工場で余ったやつをもらったの。結構安く買えたのよ」

「……もしかして」

「もしかして?」

「今回の盗みに入る二日くらい前に、伊緒が私にナプキンを買って来てって頼んだじゃない?」

「ええ」

「……あれ、ヒントだったの?」


伊緒はにっこり笑う。


「そうよ。気が付かなかったの?」

「変だと思ったわよ! 何故か普通に使わないで風呂で水につけて膨らまして遊ぶから!」


そんな遠い関連性でヒントになるものか!?


「あと、もう一つ干支町に関連したことがあって」

「まだ、何かあるの?」

「なんで、あの倉庫部屋に水道があったか分かる?」

「ああ、そういえば。変よね。その吸水性ポリマーって水を吸わないと大きくならないんでしょ? なんでそんなに都合よくあの部屋に水道があるのよ?」


あの部屋に水道が無ければ、伊緒は脱出できなかったじゃないか。


「ヒントはあの美術館は出来てから30年以上経つことかな」

「30年? もっと新しい感じがしたけれど」

「そうよね。ここ何年かで改修しているんでしょうね」

「それがどうかしたのよ?」

「あの倉庫部屋って、昔は男性用トイレだったのよ」

「え?」


男性用トイレ。

女性しかいない干支町では馴染みの無いもの。


「昔は男性用トイレだったけど干支町が出来て必要なくなったから倉庫に改修したのよ。その名残で水道が残っていたのよ」

「そんな理由で、水道があったの!?」

「だって女性用トイレの隣じゃない」

「……そこから気付けっていうのは無理じゃない?」

「それはそう」


今回の話は終わったようだった。

伊緒は湯船の中で、姿勢を変える。

芦花の顔を両手で支える。


「話は終わり?」

「今回のトリックの解説は終わり。あとは動画にまとめて公開するだけよ」

「お仕事お疲れ様」

「こちらこそ、無様に負けてくれてありがと♡」


伊緒が芦花をあざけ笑う。

その言葉が芦花の身体を奥からくすぐる。


「んっっ!!!」


伊緒と芦花の唇が重なる。

浴槽で絡み合うせいで水がこぼれる。


「負け犬の芦花ちゃんには、たっぷりお仕置きしてあげないとね」

「あっ!♡!」


芦花の身体に快感が溢れる。


こうして負けるのが気持ち良いから。

伊緒が身体を直接的に気持ち良くしてくれるから。

私は伊緒の芸術盗賊を、警察として協力しているのである。


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芸術盗賊イブキトラノオ 司丸らぎ @Ragipoke

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