第14話 虹乃

そんなこんなで楽しい取り調べごっこを終えた。

この日、ミズノト美術館には行かないことになった。

午後から芦花は別の用事が入ったのだ。

イブキトラノオ対策室には虹乃と星菜の二人。


「どう思う?」


星菜が虹乃に訊く。


「どうって何が?」


虹乃は自分のPCを見ながら星菜に応答する。


「さっきの取り調べよ。芦花さんの挙動がおかしくなかった?」

「……そうかしら?」

「虹乃はそういうの気付かないわよね。芦花さんは多分、嘘をついているわよ」

「星菜はそういうの鋭いわね」

「警察なんだから、鋭い方が良いでしょ」


虹乃は科学的な根拠に基づかないのは苦手だな、なんて思っている。


「どういう嘘かしらね?」

「きっと同居人の伊緒って人のことじゃないかしら?」

「ああ、わたしと気が合いそうな」

「そこの印象は強いのね」


一緒に酒でも飲めないかしら。

芦花さんが飲み会に誘ってくれたら嬉しいんだけど。


「本当に動画配信なんてしているのかしら?」


星菜は疑っていた。


「どうかしらね。でも科学実験は本当にしていると思うわよ」


虹乃には確信が持てる。


「そうなの?」

「本当にしていなかったら、ナプキンがどれだけ水を吸い取るかなんて実験を思いつかないわよ」


個人的に気になったか、もしくはナプキンメーカーで仕事していないとやらないような実験である。


「それはそうね。実際にやったことが無くてつけるような嘘じゃないだろうし」

「でも春照伊緒さんについて何か隠していそうね」

「そうなるのかしら?」

「ただの勘だけどね」


星菜は芦花の言葉を振り返りながら考えていた。


「同居人って言っていたけど、実はもう既に結婚していたとか?」

「それくらいだったら隠さないと思うけど? ここは干支町だし」


芦花も結婚していてもおかしくない年齢だ。


「どうする? 春照伊緒の個人情報を調べてみる?」

「う~ん。そこまでの捜査権限はないから無理でしょうね」


警察とはいえ、それなりに怪しい人でないと個人情報は調べられない。


「その春照伊緒がイブキトラノオなんてことがあるのかしら?」

「まさか。そんなに近くにいるとは思えないけど」

「でも芦花さんがイブキトラノオっていう噂は解消されそうにないわね」


芦花がイブキトラノオかもしれないという噂を検証するための取り調べだったが成果は無し。


「まぁ、次のミズノト美術館でイブキトラノオを捕まえようか」

「ねぇ、芦花さんに秘密で罠を仕掛けない?」


虹乃が提案した。


「芦花さんに秘密で?」

「ええ。今までイブキトラノオは警察の手から楽々と逃げおおせてきた。それが芦花さんから情報が漏れていたからだとしたら?」

「芦花さんに秘密で罠を仕掛けることで、イブキトラノオを出し抜けるかも?」


虹乃は立ち上がった。


「よし、今から罠を仕掛けにいこう」

「今から?」

「芦花さんがいない今がチャンスでしょ。行くわよ」

「ん~、まぁ、行こっか」


どうせ他にすることもない。

虹乃と星菜は支度をして美術館に向かった。

芦花に秘密で罠を仕掛ける。



そして11月28日。

イブキトラノオの予告した日が訪れた。

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