novel.51 噂の転入生

 学校に着き、天沢さんと別れていつものように教室に入ると、普段から騒がしい教室がいつもに増して騒がしい気がした。どこかいつもと違う雰囲気を感じながら自分の席に座ると、近くで話していた女の子に声をかけられた。


「ねぇねぇ、汐宮さんは知ってた?」


「……なんのこと、でしょうか?」


  私は基本、クラスメイトには敬語なのだ。でも天沢さんは特別。だって後輩だし、まぁ、一応恋人でもあるから。タメ語でもいいかな、と思っているのだ。そんな話はどうでもよく、クラスメイトの子は「ええ、知らないのぉ!」と驚いたように声を上げた。


「何って転入生のことだよ!今日から転入生が来るんだって!しかもすごく美人らしいの!」


 クラスメイトの子にそ教えられて、私は思わずはっ、とした。


(多分、転入生って、雪城さんのことだ)


 昨日会った雪城さんは確かにこの学校の中にいた。外で会った訳でもないし。ちゃんと憶えている。確かに資料室で見たのだから。でもそうにしても一つ、不思議な話がある。


(どうしてその話がこのクラスで出てるんだろう?)


 そう疑問に思った瞬間だった。教室のドアが開けられ、先生が入ってくる。さっきまで楽しそうに話に花を咲かせていたクラスメイトたちは、散らばるように自分の席に戻っていく。そうして教室が静まり返った所で、先生がコホン、と一つ咳払いをした。


「はい、みなさん。おはようございます。今日は皆さんにお知らせがあります。このクラスに転入生が入ってきます」


 そうして先生が教室のドアの外に手招きをすると、外から1人の女の子が入ってきた。そうして静かに教卓の前に立つ。みんながその姿に注目、いや、見惚れていた。そんな雰囲気を感じた。


「雪城さん、挨拶を」


 そう言われ、彼女は口を開いた。とても綺麗な顔をして。


「この学校に今日から転入することになりました。雪城榊です。女子校に憧れてたので転入して来れて嬉しいです。今日からよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた彼女の姿に、誰も拍手などしない。しないのではない。忘れたのだ。拍手をすることを忘れるほど、女の子でも見惚れてしまうほど、それほどに彼女は美しかったのだ。


「はい、じゃあ雪城さんは後ろの席に座って」


「はい」


 そう返事をして教室を歩く彼女が、私の席を通り過ぎようとした時、確かに彼女は私の方を見て、細く小さな声で囁いた。


「よろしくね、汐宮さん」


 そこで私は確信した。彼女、雪城さんは昨日のことをしっかりと憶えている事を。雪城さんは昨日のことも、多分全て覚えているのだろう。そうでなければ、私の耳元で囁くようなことだってしないはずなのだ。

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