美人な転校生はあの子の元カノさんです

novel.50 心配性な弟

 学校の最寄駅に着いた電車を降りて、改札を抜けた所でスマホがカバンの中で振動する感触がして、私は急いでスマホをカバンから出した。


「ごめんね、天沢さん。電話、出てもいい?」


 私は隣の天沢さんにそう詫びてから、電話に出た。


「はい、もしもし」


 するとその直後、とても大きな声が私の耳に響き渡った。


「お姉ちゃん!?無事!?大丈夫?!生きてる!?」


 その声の主、そうして私を過剰に心配するその言葉は確かに私の弟・深玖のものだった。


「……深玖、おはよう。そんな大声出してどうしたの。昨日は友達の家に泊めてもらうってお父さんから聞いたでしょう」


「お姉ちゃんに友達なんていないじゃんか!聞いた時からおかしいと思ってたんだ!何か変なことされてない?家には1回帰って来るんだよね?」


 その言葉に私はため息をついて答えた。


「深玖、泊まらせてもらったのは学校の後輩さん。生徒会で遅くなったから昨日は泊めさせてもらっただけ。今から学校だから帰れないけど、今日はちゃんと帰ってくるから。深玖も早く学校に行きなさい、わかった?」


 私が少し強めにそう言うと、深玖は渋々「うん」と返事をした。ああ、全く手のかかる弟である。するとその会話を聞いていたのか、天沢さんが私を手招きした。


「ごめんね深玖、ちょっと待って。……天沢さん、どうかしたの?」


 すると天沢さんは、


「弟さん、説得するの大変なんだろう?少し私に貸してくれないか?」


 と言った。深玖を天沢さんと話させるなんて、とも思ったが、このまま深玖が渋っては学校にも行けないので、私は天沢さんにお願いすることにした。天沢さんにスマホを渡すと、天沢さんは少し間を置いた後に喋り始めた。


「……初めまして、ああ、私、汐宮先輩の後輩の天沢一紀と言います。はい、ええ、昨日は私のミスを先輩がサポートしてくれている間に夜が遅くなってしまって、それで私の家に泊まってもらって。はい、特に変わりはなかったですよ。でも弟思いなんですねぇ。夜なんか、弟さんは大丈夫かな、なんて心配していましたし。……ええ、はい。今日はちゃんとお返ししますので、ええ、はい。では失礼します」


 天沢さんはサッパリそういうと、そのまま電話を切ってしまった。そうして私にスマホを返しながら、


「いい子だな、深玖君」


 と、あっさり言い放ってしまったので、私はその言葉に唖然としてしまった。


「……あ、うん、でも色々言ってたでしょう?ごめんね、あの子、何か失礼なこと言わなかった?」


「……?ああ、何も。少し心配性ぐらいじゃないのか、あれぐらい。だって唯一のご兄弟なのだろう?汐宮先輩が泊まるともなれば、それぐらい普通じゃないのか?」


 私はそこで、天沢さんって理解能力、というか、受け入れる幅が大きいよなぁ、と思った。私的にはあの歳でまだ私にベタベタしちゃって……と私は心配していたのだが、もしかすると心配性だったのは私の方かもしれない。私は天沢さんにそうだね、と返してから、また学校に向かって歩き出した。

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