novel.49 最後の最後で

 朝ごはんを頂き終えて、私は天沢さんのお母様に挨拶をした。


「急だったのに、本当、お世話になりました。ありがとうございました」


 私がそう言うと、天沢さんのお母様は嬉しそうに笑った。


「あら〜、全然良いのよ〜!また泊まりに来てね。私も嬉しいし、みんなも喜ぶから〜」


 そんなまたご迷惑をかけては、と私が言うと横から光紀君と初紀ちゃんが顔を出した。


「そうですよ!また泊まりに来てください、個人的に話したいことも沢山ありますし!」


「聖お姉ちゃんまた来てね〜!」


 そう言われてしまっては仕方がない。私は「うん、ありがとう」と答えて玄関に向かった。天沢さんは先に玄関にいてもう靴を履いていた。


「じゃあ一紀、聖ちゃん、行ってらっしゃい〜!気をつけてね」


 天沢さんのお母様の言葉に頷紀、さて、行こうかと天沢さんと玄関のドアに向かったその時だった。


「ぎゃ〜!!ただいまぁ!!もう疲れたよぉ!!」


 そんな声と共に私達が玄関のドアを開ける前に、目の前のドアがばっ、と開けられた。そうして家に入ってきたその人は、そのまま正面にいた私に構わず抱きついてきた。


「う、わわっ……!?」


「え〜!!なんかふわふわしてる〜!!良い匂いする〜!一紀〜??あれ〜、一紀正面にいるじゃん〜!!じゃあ私が抱きついてるのだれ〜!??」


 抱きつかれた体から強くお酒の香りがした。この人、すごく酔っている。でももしかしてこの人って……。


「あ、あの、もしかして天沢さんのお姉さん、ですか?」


 私がそう言うと、その人はあからさまに酔った顔で笑った。


「え〜!!何、なんで私のこと知ってんの〜!!??」


 その瞬間、後ろからその人が思い切り叩かれた。



「いやいや、ごめんねぇ。まさか一紀の先輩さんだったとは、知りもせず!」


「本当に申し訳ないんだと思うならもっと誠意をこめて謝ってくれ、冬紀ねぇ」


「あ、いいのいいの。天沢さん……!」


 私がそう言うと、そのお姉さんはガバッ、と立ち上がって、私に手を差し出してきた。


「私、天沢冬紀。兄が春紀、姉が冬紀で覚えやすいでしょう〜?」


「あ、汐宮聖です。昨日は泊まらせて頂きました」


「あ、そうなの?いーよ、いーよ、私もよく友達連れ込んでたから。あ、ちなみに芸大の2年。専門は美術の絵画科!いや〜、締め切りが近いからついお酒にインスピレーションを求めちゃってねぇ……いやはや、お恥ずかしい」


 なんか、意外だった。お兄さんの春紀さんも次男の光紀君も真面目な感じだったし、天沢さんも真面目なタイプだから、まさかそのお姉さんがこんなタイプだったとは。しかも芸大って、もしかして結構すごい人なのかもしれない。


「ほら、冬紀。一紀と聖ちゃんはもう学校だから、そこどいてあげなさい」


 天沢さんのお母さんにそう言われて、冬紀さんが玄関の前から退いてくれ、私達はようやく玄関を出ることができた。


「聖ちゃん、またいつでも来て良いからね〜!」


「また話そうね〜!聖ちゃん〜!」


 私はそんな声に見送られ、一夜お世話になった天沢家を出た。

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