novel.48 寝ぼけた後輩を笑う

 朝、カーテンの隙間から入り込んでくる光で目が覚めた。まだ目を閉じているうちから、いつもの布団ではないことがわかって、なんでだっけだと思って、そういえば昨日天沢さんの家に泊まったことを思い出した。そうしてゆっくりして目を覚ました時、私は思わず驚きの声が出そうになったのをなんとか抑えた。正面に天沢さんの顔が間近にあったからだ。そうだった、昨日天沢さんが布団に入ってきて、そのまま寝たんだった。天沢さんはまだすやすや、と眠っている。私は天沢さんを起こさないように、スマホを手に取ろうとしたが、その後ろで何かががさごそ動く音がした。


「……んん、汐宮先輩……」


 後ろでそう名前を呼ばれて、私はそちらを見た。するとそこには、目をぱっちりと開けた天沢さんがいた。


「おはよう、天沢さん」


 私がそう声をかけると、天沢さんはその端正な顔をとても甘い顔に変えて


「起きて1番に眼に映るものが汐宮先輩だなんて、幸せだ」


 だなんて、寝ぼけたことを言って見せた。






「おはよう、一紀、聖ちゃん!朝ごはん出来てるから食べてね〜!」


 朝、リビングに天沢さんと向かうと、天沢さんのお母様がそう言って朝ごはんの準備をしていた。広いテーブルには春紀さんと光紀君、そうして子供用の椅子に初紀ちゃんが座っていた。席に座るとそれぞれ「おはよう」と挨拶を交わす。私もいつも通りに挨拶をして、席についた。朝ごはんは食パンとハムエッグというありふれたもので、テーブルの真ん中には各自自由に、と言うようにジャムやバターが入った瓶が置かれていた。


「ジャムとかは自由に使ってくれ」


 天沢さんにそう言われ、私はじゃあ、と遠慮なく使わせてもらうことにした。春紀さんは黙々とご飯を食べていて、光紀君は初紀ちゃんの面倒を見ながらご飯を食べていて、その様子は三者三様だった。そんな様子を見ながらご飯をいただいていると、ふと、光紀君が初紀ちゃんから顔をあげて私を見た。


「……?」


「昨日、ねぇちゃん迷惑かけませんでした?」


「……う、ううん。そんなことなかったよ?普通に布団を借りて寝ただけだし」


「……あんなに仲良しなんだからてっきり一緒に寝たのかと思いました。ねぇちゃん寝相悪くなかったかなって」


 光紀君がそう言った瞬間に、隣の天沢さんが大きく動揺したような気がした。でもそれは私も同じだった。背中に冷や汗をかいた。まさか光紀君が昨日同じ布団で寝た事知ってるわけ、ないよね……?


「そんな、まだ私達一緒に寝る程の仲じゃないよ……!」


 私が息も絶え絶えにそう弁解すると、光紀君は少し含ませたような目をして私達を見たと、へぇ、と何か言いたげな感じで目を逸らした。もしかしたら光紀君はとても鋭い子なのかもしれない、なんて少し思ってしまった。昨日のことも素だけど、そう言う核心をところ、天沢さんととてもよく似ている。流石は天沢さんの真下の兄弟だから、なのか。私と深玖(弟)は1歳しか変わらないのに、あんまり似てない。

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