novel.47 私はどうすれば良い

 私がそこまで話し終えると、ベットの上で何かががさがさ、と動く音がした。その音に思わず私が反応してそちらを見ると、そこにはベットから起き上がって私を見ている天沢さんがいた。


「……そっちに行ってもいいか?」


 天沢さんの控えめな声が部屋に響く。断ることなんて到底出来ない。私は「うん、いいよ」と返して、そのまま掛け布団を上げた。すると天沢さんは遠慮なく布団の中に入ってきた。誰かとこんなに近い距離で横たわるのは、小学生の時に深玖を寝かしつけてた時以来だ。電気が消えた部屋の中で、天沢さんが私をじっ、と見ているのだけがわかった。


「……なぁに、天沢さん」


「今でも、お母様のこと思い出すことはあるか?」


「……天国で悲しんでるかもしれないけど、ない。お母さんが死んでからバタバタしてて弟の面倒とか家事を覚えることで一杯だったし、今も全額免除で大学に行くために必死に勉強してるから、毎日の中で思い出す暇がないよ。だから今、天沢さんと話してて思い出した」


「……そうか」


 天沢さんはそう言って、少し間を空けてからまた話し出した。


「……私もだ。全部一緒だとは言わないが、でも私も、雪城先輩のことを思い出すことはほとんどないんだ。私は自分でかき消したんだ。自分でその思い出を消したんだよ。……雪城先輩は、そう言うのはきっと嫌うだろうな」


「……うん」


 多分だけど、かつての雪城さんと天沢さんにもこんな時間があったんだろうと思った。夜更かししていろんなこと話して、同じ布団で寝る、みたいなことが。もしかしたら私との今のことは、雪城さんとの思い出の上書きに過ぎないのかもしれない。ただ、天沢さんにとってはそれだけの……。


「でも、どんなことがあっても、私は汐宮先輩の味方だから。しんみりするのは今日だけにする。今日、汐宮先輩が私を大切にしてくれたように、明日からは私が汐宮先輩を大切にするよ。これまで以上に、もっと」


「でも、雪城さんのことがあるんでしょう」


「私が汐宮先輩を好きで大切にすることと、雪城先輩のことは関係ない」


 そう、はっきり言われてみればそうだ。私と雪城さんに関わりなんて、今のところ何にもないんだから。同じ人に好かれてしまったぐらい?


「ねぇ、私はどうしたらいいの?だってまだ私は天沢さんのこと、ちゃんと好きだって言えない。天沢さんにまだ惚れさせてもらってないよ。なのに私は雪城さんを前に、天沢さんの恋人だって言っても……天沢さん?」


 隣を見ると、天沢さんはもうすっかり眠っていた。今更ベットに運んであげても仕方ないし、このまま隣で寝かせてあげることにした。明日も学校だ。雪城さんに会わないとも私には断言できない。もし、話しかけられたら、私は一体どんな顔でいれば良いんだろう。どんな顔をして、どんな言葉で「私は天沢さんの恋人なんですよ」だなんて。


「私、どんな顔して言えばいいの、天沢さん」

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