novel.46 お母さんのこと
「きっと雪城先輩もそのことは怒っているんだろうな、とは思うよ」
そう言った天沢さんが、ベットの上で寝返りを打った音がした。
「……何を聞かれても、たとえ間違ったことを言われても、私は否定も肯定もしなかった。……ずっと黙っていた。その時の私は沈黙が肯定の意を表すと知らなかったんだ」
そんなこと、当たり前だと思った。中学生がそんなことを知っている訳ない。そんなことを知っている子供は勘違いされたらどんな悲惨なことになるか身にもって体験した子ぐらいだ。そう、私のように。
「じゃあ、私と一緒だね」
私がそう言うと、天沢さんは小さく「え?」と聞き返した。私はふっ、と笑って答えた。
「……天沢さんも沢山話して大変だろうから、私の話も少し聞いてくれる?例えばそう、軽い箸休めだと思って」
私がそう言うと、天沢さんは少しの間の後「ああ、聞かせてくれ」と答えたので、私はこくり、と頷いて、気持ちの準備をした。私が話すのだろうと思って、天沢さんは何も話さない。私を待ってくれているんだ。だからこそ私はうまく話せるように気持ちを整えて、そうして、口を開いた。
「お母さんが亡くなった時私も弟もまだ小学生だった。あ、うちの弟、天沢さんと同じ歳なの。でね、授業参観とかあるじゃない?でもお母さんが亡くなったばっかりでお父さんは忙しくてなかなか来れなかったの。友達になんで来ないのか、何度か聞かれてはいたんだけど私は黙ってた。何も言わなかった。その時は沈黙が肯定だって知らなかったから」
最初は天沢さんの箸休めに、と思って話していたのが、今更になって口が止まらないことがわかった。そうだ、私はこんな話を人にするのは初めてなのだ。
「でも中学の時だった。ずっと黙ってたらある日、クラスの男子に両親が死んで可哀想、って言われたの。びっくりした。でも話を聞けば、両親が来ないことに関して私が何も言わないことを肯定だと思って、誤解してそんなことを言ったみたい。そこで私は初めて自分の口で言った。弁解した、のほうがいいのかな。「死んだのはお母さんだけです」と初めてみんなにそう説明した」
目を閉じれば、まるであの時の情景が浮かぶようだ。友達やクラスの男の子に「死んだのは母親だけだから」と一生懸命説明した時のあの情景が。
「そう説明したことで誤解は解け、みんなはわかってくれて、私は「両親をなくして弟と2人きりになった可哀想な子」から「お母さんを亡くした子」にみんなの中で認識が変わった。そこで私は初めて自分の口で説明することの大切さを知った。そういう体験してるからさ、天沢さんと私、一緒だねって。そう言う意味」
私はそこまで話終わると、はぁ、と息を吐いた。こんなに沢山話したのは久しぶりだった。そうして、過去の話を人にしたのも多分。
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