novel.45 誤解を解かない選択

「ねぇ、ちゃん……」


 天沢さんはリビングの中に入って来ると、そのまま私の側に来た。


「汐宮先輩、もう夜も遅いし、私の部屋に行こう」


「……あ、うん」


「光紀も、もう部屋に戻れ」


「……ねぇちゃん、汐宮さん、おやすみなさい」


 私がそう返事して立ち上がると同時に、光紀君は急かされたように立ち上がって椅子もそのままにリビングから出て、部屋に帰っていってしまった。


「……あ、天沢さん、お風呂から上がってたんだね」


 場を取り持つように、私がそう言うと


「私は入浴の時間は早い方なんだ。さぁ、部屋に帰ろう。今日は色々あったしな。汐宮先輩もお疲れだろう」


 そう言って天沢さんが颯爽と自室に向かったので、私は急いでその後をついて行った。




 部屋に着くと、部屋のベットの下にはすでに敷布団がひかれていた。


「ベットじゃなくて申し訳ないが、遠慮なく使ってくれ」


 そう言って天沢さんは敷布団を勧めてくれたので、私は感謝を告げて遠慮なく使わせてもらうことにした。早いことで、時計はもう既に10時を指していた。私が布団に入ると天沢さんもベットの中に入り、そのままリモコンで電気を消した。


「じゃあ、天沢さん。おやすみなさい、またあし……」


「……光紀は、なんて言っていた?」


 寝る雰囲気のはずだったのに、天沢さんのその言葉で、天沢さんがまだ寝るつもりではないことを私は感じ取った。


「……光紀君は、」


 なんて言うか、少し悩んだが嘘をついたってしょうがないので、私は素直に話すことにした。


「……光紀君は雪城さんのことを聞いてきたよ。もう聞いたかとか、誰から聞いたかとか、すごく気にしてた。……でも天沢さんのことを心配してたんだよ。あんなに傷ついていたのにみんなして無神経だって」


「……そっちのほうが困った話なんだけどな。また、汐宮先輩に話さないといけないことが増えたな」


 そう言って、天沢さんははぁ、とため息をついた。でも天沢さんが自分の中で気持ちを整理しているようにも思えて、私はそのまま黙って言葉の続きを待った。すると、天沢さんはまた息を吸って話し始めた。


「……春紀にぃは頭が良かったから中学から名門学校に進学して、冬紀ねぇはほとんど学校には行ってなかった。だから同じ中学校に通ってたのは私と光紀だけだった。だから、光紀は兄弟の中でも尚更詳しく雪城先輩のことをよく知っているんだ」


「……だから光紀君は、あんなに天沢さんの事心配してたんだね」


「……今でも中学で私達の事を色々噂している子に、弁解みたいなものをしているみたいだしな。私がそうしなかった代わりに」


「天沢さんは噂している子達に何も言わなかったの?噂といううか、有名な話しなんだから、真実とは違う話、といううか、誤解している子がいてもおかしくないのでしょう?それを否定しなかったの?」


 すると天沢さんは、吐息混じりにその言葉を否定した。


「……しなかった。いや、むしろ、不自然すぎるぐらいに私は何もしなかったんだ」

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