novel.41 天沢家の愉快な兄弟

「遠慮せずに食べてね!ごめんね、ちゃんとしたご飯じゃなくて。もう、一紀ったらお友達連れてくるってちゃんと言ってくれたらしっかりしたもの用意したのに……!」


 天沢さんのお母様はそう言ってはいるものの、目の前のテーブルに広がっていたのはとても豪勢なご飯だった。天沢家ではこのご飯が当たり前なのだろうか、なんて思いながら私は手を合わせる。お母様が取り寄せてくれたお皿に遠慮しつつ手を付けながら、ご飯を食べているとお母様が私の正面に座った。


「うふふ、それでまだお名前聞いていなかったわね。お名前なんて言うの?」


「ごくっ、あ、汐宮聖と言います。今、高校2年生で天沢さんとは生徒会で縁があって......」


「あら、そうなの~!じゃあ聖ちゃんは一紀より1こ上なのね!......一紀は学校ではどう?迷惑かけてないかしら?」


「あ、いえ。天沢さんはいつもみんなに優しくて、私もとても助けられています!」


「あらあら、嬉しいわ~!家ではおとなしいから学校ではどうしているかと思ったけれど」


 天沢さんのお母様がそう言うと、隣の天沢さんが口を開いた。


「もう、母さん。私の話はいいよ。それより、汐宮先輩は生徒会で本当によくしていただいているんだ。まだ慣れない仕事とかも私にすごく優しく教えてくれるし、何より汐宮先輩はうちの学校でも1番の優等生なんだ」


「あらあら、一紀がそんなに褒めるなんて。一紀は聖ちゃんが好きなのねぇ」


 天沢さんのその言葉に、私は思わず首を振ってしまった。


「い、いやいや、助けられているのは私の方なんです!天沢さん、あ、い、一紀さんは誰にでも優しくて、生徒会の雰囲気も一紀さんのお陰でとても朗らかで......」


「そう?まるで家では違うのねぇ。でもそんな一紀のことを見てくれていて、嬉しいわ」


 天沢さんのお母様がそう言った途端に、後ろからリビングに誰かが入ってきた。その人はテーブルの前まで来ると、天沢さんのお母様の後ろから私をじぃ、っと見た。


「母さん、誰?その子」


「えっ、あっ!」


「あら~、春紀。この子は一紀のお友だちの聖ちゃんよ~!挨拶してね」


 天沢さんのお母様にそう言われると、その人は私をまっすぐ見て綺麗に私に一礼した。


「初めまして、一紀の兄の春紀です」


 その言葉に、私は思わず椅子から立ち上がって答えた。


「あ、初めまして。今晩はお邪魔しています。汐宮聖です」


 私がそう挨拶すると、そのまた後ろからまた誰かが入ってきた。


「わぁ~!知らないお姉ちゃんがいる!お姉ちゃん誰~!?」


 小さい子、だから、小学生の妹さんだろうか。すると、隣で天沢さんの小さな声がした。


「......騒がしくなってしまった」


......なんて声が、ひそやかに。

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