novel.39 貴方を支えたい思い
私は天沢さんの手を引いて駅のホームに入り、そのまま止まっていた電車に乗り込んだ。ラッシュを過ぎた車両の中は誰もいなかった。私は適当な席を選んで座った。天沢さんはようやく泣き止んだのか、私のハンカチを握りしめていた。とにかく泣き止んでよかったとか人がいなくてよかったとか思いつつ、私は天沢さんの様子を伺った。
「大丈夫?落ち着いた?」
「……すまない、先輩の前で年甲斐もなく泣いたりして」
「いいよ、私の言葉が何か刺さっちゃったんでしょ?私にも責任あるし」
「……そう言う訳ではないんだ。自分が嫌になったんだ。雪城先輩のことで、汐宮先輩を巻き込んでしまって。本当は自分で何とかしなきゃいけない事なのに、汐宮先輩に寄り掛かってしまった気がしたんだ」
私はそこでようやく天沢さんのことを、本当の意味で理解した。天沢さんはきっと誰よりも責任感が強いんだ。雪城さんのことも本当は私に言うつもりなんてなかったみたいだし、だからこその涙だったんだろう。そこを私はわかってあげられなかった。今は私を1番頼ってくれて、私を1番好きでいてくれているのに。そう思ったら、私は思わずその体を抱き寄せてしまっていた。
「し、汐宮先ぱ……」
「ごめんね、私、天沢さんのことわかった気がして何もわかってなかった」
「そんなことはない、そんなことは……」
「ううん、そんなことあったの。ごめんね、これじゃあ先輩も、恋人も失格だね」
私がそう言うと、天沢さんは私の胸からがばっ、と顔を上げた。
「そんなことはない、汐宮先輩が悪いことは何もない。先輩の役目も恋人の役目もちゃんと果たしてくれているから、自分を責めないでくれ」
これじゃあ、さっきとまるで形勢逆転だ。これじゃあ今度は私が天沢さんに慰められちゃっている。でも、こうしてちゃんと自分の気持ちをはっきり伝えてくれる天沢さんが好きだ。
「……うん、そうだね。弱気になっちゃ駄目だね」
そう言って、私は天沢さんから手を離した。
「よし、雪城さんのこと、ちゃんと考えよう。天沢さんが傷つかない方法を探そう。そうして雪城さんも納得する方法を」
「ああ、それが今、私達に出来る1番のことだと思う」
「うん」
そう納得して、私が笑うと、天沢さんもいつもの笑顔で笑ってくれた。ただ、泣いてしまうほどに、あんなに情緒不安定になってしまうほどに、雪城さんのことは思う節があるんだろう。そこを支えていきたい、と私は思った。
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