novel36 受け止める覚悟
「お互いを好きにならない......?」
「......ああ」
駅の構内に入った私達は、いつのまにか改札を抜けてホームにいた。天沢さんは当たり前のように私と同じ電車に乗るつもりらしい。
「でも、どうして雪城さんはそんな条件を......?」
「それは私にもわからない。でも、雪城先輩が求めていたのは恋人ではなかった、というのだけは確か。......私はあっさり恋心を見透かされそのままさようなら。雪城先輩が高校生になった秋の話だった」
「......そう、だったんだ」
「......そのあとは苦労した。受験勉強も手につかず親や先生を困らせた。雪城先輩と同じ高校に進学するつもりだったけど、やっとの思いで進学先を変えた。色んな意味で皆には驚かれた。冬になる頃には雪城先輩は新しい彼氏を作ったらしい、という噂が流れた。でもそれは本当だった、だって見に行ったからな。完全に雪城先輩に捨てられたことを自覚した」
「......」
天沢さんとの間を埋めるように、電車がタイミングよくやって来た。天沢さんは迷いなく電車にのりこむ。私も急いでそのあとを追う。天沢さんは人の少ない車両を選ぶと、端の席に座った。私もその隣におずおずと腰かけた。
「......この事を、汐宮先輩に話すつもりは微塵もなかった。なんなら私は汐宮先輩に出会う前までは人気者にでもなって、適当にかわいい女の子と付き合おうとさえ思っていたんだ。だけどそんなことをする勇気はなかった。雪城先輩が私と適当に関わったように、今度は私が誰かと適当に関わって傷つけるかもしれないと思ったら、何もできなかった」
天沢さんは自責の念に刈られたようにそう話す。あんなに綺麗な目に一切の光がない。そこまでして、この人は私に重い過去を話してくれた。なら、今の私に出来ることは......。
「天沢さん」
そう、まるで何気なくそう呼ぶように私は彼女の名前を呼んだ。そうして冷えた手を、しっかりと掴んだ。
「......そんなに重くて大切な過去を、話してくれてありがとう。ちゃんと受け止めたよ、しっかり天沢さんの気持ち、聞いた」
「......え?」
「だから、一緒に考えよう。雪城さんのこと。何で今日学校にいたのかはわからないけれど、でも何か出来ることがあるかもしれない。今からいくらでも対策しよう!」
私がそう言うと、天沢さんはありえない、とでも言いたげな顔で私を見た。
「......怒らないのか?」
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