novel.35 関係の条件
すっかり暗くなった道を、駅までの間、天沢さんは話し続ける。
「それからだったかな。雪城先輩は私の練習を見に来るようになった。その、勘違いかと思われるかもしれないが、後輩の練習姿を見ているようで、視線だけで、私を見ているとわかったんだ。あの人は私に狙いを定めていると、そう思わせるだけのものがあの人にはあったんだ。しばらくして、今度はお昼を一緒に食べよう、と誘われた。そのうち、勉強でわからないところがあったら教えようか、とか、帰る方向が一緒だからと言う理由で一緒に下校したり、どんどん一緒に居る時間が増えていったんだ。私はそのころにはすっかり、雪城先輩の虜だった」
私はそこでようやく薬真寺先輩の言っていた、「人を魅了する才がある」の意味を理解した。
「そうして親密になったある夏の日のことだった。私は雪城先輩にとある頼まれごとをした。……それは「依存相手」になってほしい、と言うものだった。今貴方に見せている私は全てじゃない、でも貴方になら本当の私を見せたい。恋人とは違う、でも絶対にお互いを信用し愛するという誓いの関係、と言われた。勿論二言返事でOKした。その頃の私は雪城先輩にすっかり落ちていたからな」
天沢さんは、まるでその時の自分を後悔するようにそう言った。
「そうして私達は限りなく恋人に近い依存関係になった。私は頼まれれば、キスをした。頼まれれば、その体を、抱いたこともある。とにかく頼まれればなんでもしたんだ。そうしているうちに中学校では百合の雪天と呼ばれるようになった。まぁ、有名だったよ」
まるで何かの原稿を読んでいるかのようにそう話しつくした天沢さんは、ようやくその長い原稿を読み終わるようにした。でもその続きを、私は促した。
「……でも、雪城さんが高校に進学して別れることに、なったんだよね」
私がそう言うと、天沢さんは驚いたようにして私を見た。
「……薬真寺先輩はそこまで話したのか?」
「……うん、上手くいかなくなって破局って言う話だけだけど」
「ああ、その通りではある。でも、少し言葉が足りないかな」
そう言って天沢さんはまた顔を曇らせた。少し微笑んでいるような、悲しんでいるような、そんな表情だった。
「上手くいかなくなったとか、別に仲違いしたとかそう言うのではないんだ。ただ、私が関係の条件を破ってしまったのが原因なんだ」
「関係の条件……?」
「ああ、雪城先輩と依存関係になるにあたって、一つ条件を出されていたんだ」
「条件って一体……」
「……絶対にお互いを好きにならない事」
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