novel.31 何かを知る生徒会長

 取りあえず一旦は私は生徒会室に行き、天沢さんは部活へと向かった。私は毎日のように行われる生徒会の仕事をこなしながら、頭はさっきの出来事で一杯だった。


(さっきの人、雪城先輩って言っていたよね…………)


 しかも別々の高校に進学したはずとかなんとか言っていた気がする。多分私には関係のないことで、天沢さんは私を巻き込みたくはなくて、でも私が巻き込んでほしいと無理に頼んだから天沢さんは泣く泣く承諾してくれた。私はそれが何だか胸を指すようで、苦しかった。それに、多分初めてなのだ。天沢さんのプライベートな部分に踏み込むのは初めてだから。だから、心なしか緊張してしまうのだと思う。そんなことを考えながら、手を動かしていたその時だった。


「今日は上の空ね、聖」


「……え?」


 ふと、目の前にいた生徒会長に声をかけられた。


 うちの女子高の生徒会長・薬真寺やくしんじ 百々子ももこ先輩。生徒会長にふさわしい文武両道な性格とその人を束ねるだけのカリスマ性。皆から尊敬されていて、そうして私を生徒会に引き入れた人物だ。この人がいなければ私は生徒会というやりがいを見つけられずに、高校生活を消費していただろう。そんな人が、私に声をかけた。


「……すみません、集中していたつもりだったのですけれど」


「ええ、周囲からはそう見えるでしょうね。でも、私の慧眼はごまかされないのよ」


 薬真寺先輩はそう言うと、残っていた他の生徒会役員に「今日はもう上がりにしましょう」と声をかけた。





 他の生徒会役員が帰り、生徒会室に私と薬真寺先輩が残った。私は夕日が落ちていくのを横目で見ながら、生徒会の資料を手遊びのようにして触っていた。


「さ、話を続けましょ。聖」


 そう言って薬真寺先輩は私の正面に椅子を持ってきて、そこに腰かけた。


「……最近、何か変わったことがあったの?」


「……いいえ、何も」


「そう、じゃあ質問を変えるわ。……天沢さんとはその後進展はあった?」


「………どうしてそれを」


「私の慧眼はごまかされない、と言ったはずよ」


 薬真寺先輩はにこにこしながら続ける。


「天沢さん、聖のことが相当に好きなのね」


「……そんなことは」


「そんなことはあるわ。いつも目が死んでいた天沢さんの目が輝いているのは最近のことだもの」


 薬真寺先輩はそう言って、私に視線を向けた。


「……来たんでしょう?あの子」


「………あの子?」


雪城ゆきしろ さかき


「……っ!」


「ねぇ、聖。私らしくないことを言うようだけれど。今からでも考え直してもいいと私は思うのよ」


 珍しく薬真寺先輩は顔を曇らせてそう言った。


「……聖には、雪城榊とは関わらないでほしいのよ」

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