novel.28 泣いて縋がるほどに

 次の日、私は学校の廊下を歩きながらため息をついていた。


(ああ、どうして昨日あんなこと言っちゃったんだろう……)


 私は教科書をぎゅっ、と握って、昨日の恥ずかしさをごまかした。


 昨日、勢いで天沢さんに変なことを言って、そのまま電車から飛び出してしまった。天沢さんの反応も、顔も見ないで、私はそのまま飛び出してしまったのだ。


(はぁ、今日もし合ったら天沢さんにどんな顔したら......)


 そう思いながら、生徒会室に入ろうとした時だった。


「汐宮先輩」


 横からそう声を掛けられたと思ったら、そのままどこからともなく伸びてきた手に引き寄せられ、私は生徒会室の隣の資料室に連れ込まれた。私を引っ張った本人を見ると、そこには静かに、というポーズをした天沢さんがいた。


「あ、天沢さん......」


「昨日ぶりだな、汐宮先輩」


 そう言って天沢さんは私にドアを閉めるように言ったので、私はおとなしくドアを閉めて天沢さんに向きなおった。


「天沢さん、一体どうしてこんなところに?」


「汐宮先輩と話したかったのだが、なかなかゆっくり話せる場所がなくてな。こんなところだが許してくれ」


「うん、あ、なにか話したいことでもあったの?」


 私はわざとらしくそんなことを言った。きっと天沢さんが話したいことなんて、昨日の電車の中でのことに決まっているのに。だけれどなんだか気恥ずかしいのと、逸らしたいのでわざとそんなことを言ったのだ。でも天沢さんはなんてことない顔をしている。


「天沢さん、私......」


「すまない。昨日の言葉、聞き逃せなかった。あれは汐宮先輩が少しでも私を好きになってくれるという可能性があっての話なのか?」


「可、能性......」


「今は好きと言えない、でもいつかは好きといってくれるってことなのか?」


 天沢さんの真剣な目に貫かれて、私は声を出すこともできず行き詰まってしまった。でも、その天沢さんの激しい目からは逃れられる訳もなく、私は数回息を吐いてから、真っ直ぐとその目を見返した。


「......うん、あるよ。その可能性は」


 その時、天沢さんの目が確かに揺らいだのを私は見た。それはもし言葉として表現するのなら、多分といえるのだと思う。天沢さんは今、確かに私が天沢さんを好きになる可能性に期待したのだ。その可能性を見いだしたのだ。天沢さんはしばし驚いた顔をしたあと、すぐに鋭い表情に変わった。


「......じゃあ、死力を尽くして貴方を私に落とせば、の私の彼女になってくれるんだな」


「本当って、今は私は天沢さんの恋人じゃない」


「今は脅されて、だろ?私が言っているのは、貴方が本当に私に惚れてくれて、もし別れるといったらなら泣いて縋ってくれる状況を言っているんだよ」


 そんな言葉を、私は昨日も天沢さんから聞いたような気がした。

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