novel.26 この手から伝わるもの
「じゃあ天沢さん、今日はありがとう。またあし……」
「一緒の電車だろう?連れないな。もう少し一緒に居てくれよ」
「……!」
なんだか天沢さんって狡い。さらっとこういうこと言うところが。この子は素でこんな感じなんだろうか。それとも自分の「学園の王子様」というキャラの需要を知っていてこんなことを言っているんだろうか。私にはその判別すらも出来ないけれど。
「でも天沢さん、朝言ってたよね。この電車、遠回りなんでしょ?」
「別にいい。少し乗車時間が長いだけだ」
そんな会話をしているうちにいつの間にか駅のホームについてしまっていたので、私はもう諦めてこの電車で天沢さんと帰ることにした。天沢さんは静かに電車を待っている。私はその横顔を少し覗きながら、さっきの天沢さんの言葉を考えていた。
(一緒に隣を歩くための努力、か……)
だとしたら、私は皆に天沢さんと付き合っていると認めてもらうためにどれほどの努力をしなければならないのだろうか。例えば私と天沢さんが付き合っているとみんなが知った時、私が天沢さんにふさわしいと思われるためにはどう変わればいいのだろうか。今の私には何が足りないのか、いや、今の私には色々足りなさすぎるんだけど。でも、今はそれよりも……
「……っ!汐宮先輩?」
「ん?何?」
天沢さんの腕に自分の腕を絡めて、少し抱き着いて見せる。こんなことをしたら彼女はどんな反応をしてくれるのか、そっちの興味の方が沸いてしまう。
「人前だぞ……」
「もう少し一緒に居てくれるんでしょ?」
そう言うと天沢さんは仕方がない、なんて顔しながら素直にそのままにしてくれた。なんだよ、さっき嫌なことされたら嫌ってはっきり言うって言っていたじゃないか。まさか受け入れられるとは思ってなかったから、このまましていたら私の方が恥ずかしいじゃないか。そんなことを思いながら腕を握る手に力を込めると、天沢さんは私の方を見てから、私の手を取ってそのまま手を繋ぐ形に変えてしまった。
「無理しなくていいと言っているのにな、もう。仕方ないな。こっちの方がまだ恥ずかしくないだろう?」
そう言って呆れながらも笑って見せた天沢さんの笑顔に、何故か少し心がときめいた気がした。
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