novel.23 ガチ恋営業

 今日の生徒会の仕事は部活動紹介の発表の見学だった。部活動紹介まで残り2週間を切っており、生徒会はなにかとバタバタしてしていた。新部員を勧誘できる部活動紹介という場で変な出し物がないように事前に確認するのが、生徒会の仕事。そう言う訳で部活に入っていない生徒会役員で、文化系の部活動から運動系の部活動まで全部回っていたのだった。


 部活動の出し物をひとつひとつ見て、先輩が具体的なアドバイスを出していく。来年は私がしなければならないので、その背中をしっかりと見ながら、1年生の子にも仕事が分かるように説明しながらサポートする。そうしているうちに文化系の部活動は回り終わり、次は運動系の部活動を回ることになった。最初は体育館の中で行われる部活動から回り、記録やアドバイスを書いていく。そうしてそろそろ部活動が終わるまであと30分、と言ったところで、ようやく最後の陸上部にたどり着いた。


 ここに来るときに何故かフェンスの向こうに生徒が集まっていて何の集まりだろうな、と思っていたけれども、校庭を見て納得した。校庭と生徒たちの目線の先では天沢さんが走っていたからだった。なるほど、それで納得した。あの生徒たちは天沢さんのファンクラブかなにかの人たちなんだろう。流石にこの人数に見られながら生徒会の仕事をするのは気が引けたので、私はそそくさと仕事をこなすことにした。


 

 部活動紹介の発表を見て、記録し、アドバイスして終わり。ほどんどの部活はちゃんとしていたので、特に時間がかかることもなく陸上部もすぐに終わった。さて、仕事も終わらせて生徒会室に帰ろうか、とした時、先輩が足を止めた。


「お、天沢さんが走ってる。流石1年にしてエース候補だなぁ」


 先輩が見ている方向を見ると、天沢さんが数人の部員と競争をしていた。だけど圧倒的に天沢さんが早い。しかも、素人の私でもわかるぐらいに走り方が綺麗だ。美しく整ったフォーム、足の着地点、腕の振り方。何もかもが完璧なように見えた。天沢さんは軽々しく校庭の半周を走って、そのまま華麗にゴールした。フェンス越しの生徒達から、歓声が上がる。天沢さんは肩で呼吸しながらマネージャーの子からタオルや飲み物を受け取っていた。その受け取るときの顔さえも、綺麗な笑顔で私はなんだか流石だなぁ……と少し惚れ惚れしてしまった。すると囲まれていた人の中で、天沢さんとふと目が合った気がした。多分たった数秒なのだけれど、その数秒で天沢さんが私に笑いかけた気がして、思わず息を飲んでしまった。同時にああ、これがガチ恋営業か、なんて思ってしまった。だって今の一瞬、天沢さんが本当に私のことが好きかもしれないなんて思ってしまったのだから。

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