novel.22 ひとときの合瀬
生徒会室の扉に手をかけたら何故か扉が開いていたので、私は不思議に思いながら扉を開けた。部屋はしん、と静まり返っていて、会計の座る場所に何故か天沢さんが座っているだけだった。私は袋片手に静かに扉を閉じて、中に入った。
「天沢さん?」
私がそう声をかけると、天沢さんは何かの書類からむくり、と顔を上げた。
「……私の方が早く来てしまったな」
そう言ってにやり、と笑うので、私はため息をついて、天沢さんのテーブルの前に小さな紙袋を置いた。
「はい、そんな貴方にプレゼント」
「……汐宮先輩からか?」
「まさか。私のクラスの女の子に、天沢さんに渡してって頼まれたんだ」
私がそう言うと天沢さんは少し目線を泳がせた後に、小さな紙袋を手に取った。
「……受け取って私に渡してくれたことには感謝するが、汐宮先輩はあまりにも淡々とし過ぎじゃないか?」
「淡々?何が?あ、ごめん。もしかしてこういうのってもっとテンション高く渡すべきだった?」
「いや、そうじゃない、そうじゃないんだ……」
そう言って天沢さんは鞄に紙袋を入れた。
「仮にも恋人が他の女子からプレゼントをもらっているのに、貴方は何も思わないのか……?」
私はいじけた様子でそう言う天沢さんの言葉を聞いて、ああなるほど、と手を叩いた。
「ごめんごめん、反応を間違えちゃった。こういうのは、もっとこう、嫉妬とかした方がいいんだよね。えーっと、じゃあ、天沢さん!私以外の女の子からのプレゼント受け取るなんて、私、妬けちゃうよ!」
瞬間、生徒会室に嫌な間が生まれた。天沢さんは微妙な顔をしていた。
「え、ええ!?こうじゃないの……!?」
「……いや、そんな無理やりなヤンデレは初めて見た」
天沢さんは微笑しながら、何なら私を少し憐れんだような目で見ていた。
「ええ、何も思わないのかって聞かれたから返してみたのに、そんな仕打ちはないじゃない!?」
「いや、だって絶対本心じゃないじゃないか……それ……」
「私は至って彼女としての役目を果たしてみようとしただけなのだけれど……。天沢さんのお気に召さなかった?」
なんて会話をしながら、私は副会長の席に着いた。なんで天沢さんがここにいるのかはわからないが、いつまでもこんな会話をしているわけにはいかない。今日だって生徒会の仕事はあるのだから。
「お気に召さなかった、といううか……」
そう言って天沢さんは自分の席から立ち上がった。そうして資料を出したり仕事の準備をしていた私の背後にいつの間にか回っていた。とん、と肩に手を置かれ、肩が跳ねる。
「あ、天沢さ……?」
「それが汐宮先輩の本心だったら大喜びしていたんだけどな」
天沢さんは私の耳元でそう囁くと、そのまま出入り口に向かった。
「今日は汐宮先輩に一目会いたくてここに寄っただけなんだ。私はこれから部活なので、また明日会おう。では!」
天沢さんはそう言い残すと、そのまま颯爽と生徒会室から鞄を持って立ち去って行った。
「天沢さんって、いつも颯爽としてるな」
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