恋人は学校の王子様

novel.21 クラスの人気者さえ虜

 今日も特に何も変わらない1日。普通に授業を受けて、普通にお弁当を食べて、誰と話すわけでもなくそつなく過ごす。そんな当たり障りのない1日。唯一少し変わったことと言えば、こんな私にも初の恋人が出来てしまったことだけど、別にだからって学校生活が大きく変わるわけじゃない。なんてことない学校生活だ。ただ……


「一紀様、今日こそ私の手作りのクッキー受け取ってください!」


「一紀様、今日はどうしていつもの電車にいなかったんですか!?」


「一紀様、こっち向いてください~!」


 今まで耳に入らなかった声が、よく耳に入ってくるようになった。


 知らなかった、といううか、天沢さんってこんなに人気者だったっけ……?こんな廊下を歩いているだけで、声が聞こえてくるぐらい人気だったなんて知らなかった。いや、ただ単に私が意識し過ぎていなかっただけかもしれない。思い返せば昔から天沢さんはこんな人気者だった気もする。女の子に囲まれているところなんて何度も見てるし。でも、そう思うと本当に不思議だった。


 どうして私なんかが天沢さんの恋人なんだろう……、と。


 私はあの天沢さんを取り巻く女の子達よりもかわいくないし、多分可愛くなる努力もしていないし、天沢さんを思う気持ちなら断然あの子たちに負けているはずだ。なのに天沢さんは私を選んだ。天沢さんのことをどうとも思っていない私を。そう思ったら天沢さんのファンにとって私って、あまりにも忌まわしい存在だろうな、と思った。


  そんなことを思いながら生徒会室に向かうために廊下を歩いていると、同じクラスの子に声をかけられた。クラスでも評判の、可愛くて女子力の高い、人気者の子だ。私は笑顔で接する。


「どうしたの、何かあった?」


「聖ちゃん、生徒会室に行くんだよね?そのついででいいから、1年の天沢さんにこれ渡しててくれない?」


 そう言って手渡されたのは小さな紙袋だった。


「わかった、1年の天沢さんね。渡しておくね」


 私がそう言うと、その子は安心したように笑った。


「ありがとう、お願いします!……でも聖ちゃん、天沢さんのこと知らないの?」


 思ってもいなかった質問を投げかけられて、私は言葉に悩んだ。ここはなんて言っておくべきなんだろう。でもまぁ、あんまり知らないふりでもしておくか。


「生徒会の後輩の子って事しかわからないの、ごめんね」


 私がそう言うと、その子は


「ううん、いいの!じゃあよろしくね」


 と言って去っていった。初対面で下の名前で呼んでくるなんてコミュ力お化け、怖いなぁ、なんて思いながら、私は生徒会室に足を進めた。

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