novel.20 朝の穏やかな時間に

 通学の電車に乗り込んでぱらっ、と本を開く。今日のお供は「王道シリーズ」第15巻だ。つい数日までは知らなかった百合ラノベの世界にはまり込み、初めて読んだシリーズ物の百合ラノベ「王道シリーズ」もついに15巻まで読破していた。学校の図書館には10巻までしか置いていなくて、この前天沢さんに勧められたのが11巻から15巻。シリーズはまだ続いているので、まだまだ楽しめそうだ。なんといってもこの秘密の花園で展開する物語が面白い。まぁ、実際の女子高は秘密の花園、なんて言えるほど美しくはないけれど。




 そんなことを考えて読みふけりながら、電車に揺られる。私は朝早く通学しているので、通勤・通学ラッシュに巻き込まれることはほどんどない。今日も静かな朝だ、とまた1ページめくった時だった。私の隣に学生らしき女の子が腰かけた。電車内はガラガラだし、他に席は空いているのになぁ、なんて思いながら本を読み進めていると、瞬間、目の前に綺麗な顔が現れた。


「おはよう、汐宮先輩」


 唐突な天沢さんの登場に、私は固まってしまった。


「朝から読書とは精が出るな。今日は何を読まれているんだ?」


 私はドキドキと高鳴る心臓を抑えて、ようやく口を開いた。


「……天沢さん、おはよう。もう、急に現れるからびっくりしたよ……」


「驚かしたのならすまない」


「それにしてもなんで天沢さんがこの電車にいるの?もしかして天沢さんも電車通学?」


 そう言うと天沢さんはリュックを自分の膝に置いて「まぁな」と簡単な返事をした。


「そう言えば私の通学ルートは汐宮先輩の降りる駅を通ると思って、今日は違う電車に乗ったのだ」


「え、わざわざ違う電車に乗ったの?」


「遠回りして朝早く通学するのもいいものだな。人が少なくて気が楽だ」


 そう言った天沢さんの顔は少し疲れているような気もして、それもそうだし天沢さんの言葉が気になって、私は本を閉じた。


「いつもどのくらいに通学してるの?」


「んー、8時ぐらいだ」


「あれ、遅くない?陸上部の朝練とかはないの?」


「先輩に「お前が朝練に参加すると人が集まってうるさい」と言われたので、朝練は控えて家の近所を走ってから来るようにしている」


「……ええ。入部してまだ1か月でしょ?それ理不尽じゃない?」


「先輩や部員の皆に迷惑かけるよりかましだ」


 天沢さんはそう言うと、唐突に私の肩に頭を預けてきた。私は最初こそ驚いたものの、あえて何も言わずに天沢さんの方を向いた。


「人に見られたら恥ずかしいよ?」


「こんな朝早くに誰も来ないさ」


 そうして天沢さんは目を閉じてしまったので、私は諦めて本の続きを読むことにした。

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