novel.17 胸を撃ち抜かれる

 「王道」シリーズを読んでいたらすっかり時計は21時前を指していた。私はラノベにしおりを挟んで机に置き、スマホを手に敷布団に座った。思い返せば家族以外の人とこうして電話するのは初めてのことだっだ。気軽に電話できるような友達は今までいなかったし、家族とも電話ではそんなに話さないし。時計を見てそろそろかな、と思ったけれどなんだか変に緊張してしまって布団の上に正座してしまった。でも、緊張しない方がおかしいのかもしれない。だって相手は非公式ファンクラブがあるような人気者の天沢さんなのだから。


「よし、そろそろ……」


 私は時間を見計らって、天沢さんにメールを送った。


『汐宮です。そろそろ時間かな。都合大丈夫そう?』


 そう送ってスマホを握り締めていると、数分して返事が返ってきた。


『ああ、大丈夫だ。私からかけようか?』


『よろしくお願いします』


 そう返事を送るとすぐにスマホに『電話』の文字が浮かんだ。私は慣れない手つきで通話ボタンを押した。


「はい、もしもし。汐宮です」


「天沢だ。こんばんは、汐宮先輩」


「こんばんは、天沢さん」


 電話口から聞こえる天沢さんの声は生徒会室で聞いた声より少し高く感じたけれど、それでもなんだか落ち着く声だった。


「突然誘って申し訳ない。本当は直接話す方が好きなのだが、今日は電話で勘弁してくれ」


「ううん、大丈夫だよ。私の方こそ電話は不慣れだけど、よろしくお願いします」


 私がそう言うと天沢さんはくすっと、笑って見せた。


「そこまで緊張しなくていいよ、先輩。別に取って喰ったりはしない」


「わ、わかってるけど!」


「ふふ、そうか。汐宮先輩にはこんな弱点もあるのだな」


 そう言った天沢さんの声はなんだか果てしなく甘くて、私は少し照れくさい気分になった。


「そ、それより、今日はお互いのこと話すんでしょう?私に答えられることだったらなんでも答えるからなんでも聞いて!」


「おお、なかなか積極的だな。では、遠慮なく聞くとしよう」


 数秒の間があった後に、天沢さんは私に質問した。


「昨日まで私のことはどう思っていた?どんなイメージがあった?」


 会話の触りにしては、まぁいい質問だった。私は少し考えた後に答えた。


「天沢さんのことは、それこそ学園の王子様だと思ってたよ。いつも女の子に囲まれているし、容姿もかっこいい寄りだし、陸上の話も聞いていたから、すごい人なんだなってそういう感じかな……」


 言った後に、もしかして私恥ずかしいこと言った……?と思ったりもしたが、天沢さんから何の返答もなくて、私は思わず声を出してしまった。


「天沢さん……?」


「いや、なかなか、汐宮先輩は素直なのだな……」


 そう言った天沢さんの声が、何故か私の胸を刺激した。

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