novel.14 軽率な脅し

「……は?え、え?ちょっと、待って。何を、今言いふらすって……」


「汐宮先輩が百合ラノベが好きなことと、汐宮先輩が私の告白を断ったこと」


「そんな横暴な……!」


「別にいいんだ、これは汐宮先輩が決めることだから。汐宮先輩がよく考えて決めたらいい。私はそこに何も口を出さない」


「いや、そんなこと言われても……」


 そんなこと言われても、この状況で私が断れるはずがなかった。だって休日に出会った時、わざわざ口止めをしたのは間違っても天沢さんが私が百合ラノベが好きなことを言いふらさないようにしないと、と思ったからであって、もしそれが叶わないからあの日の口止めは口止めにならない。それにプラス、天沢さんの告白を断ったなんて本人の口から言いふらされたら……。


「さぁ、どうする?汐宮先輩」


「ど、どうするって言われても……」


 私は今までないほどに頭を回転させた。でもどんなに頭を回転させても、こんな人に押し倒されている状態でまともに物事など考えられなかった。でも、それよりもずっと私は今、天沢さんに告白された、という事実が未だに受け止めきれないでいる。先述したとおり、私と天沢さんは生徒会でしか接点がない。しかもそこでも話をしたことが多いわけでもない。それに天沢さんは誰もが振り返る学園の王子様で、私は真面目だけが取り柄のただの先輩。天沢さんが私を好きになる要素なんてなにもない。考えられない。なのに、天沢さんが私を見る目はあまりにも真剣過ぎて、そんな目を人に向けられたことなんて、私の人生で今まで一度もなくて。でも、私。


「……天沢さん、ごめんなさい。それでも私、天沢さんとは付き合えない……」


「汐宮先輩は百合ラノベが好きなのだろう。なら私と付き合えばいいじゃないか」


「どこからそんな自信が……」


「自信も何も、私は百合ラノベが好きで、貴方に従順な後輩で、物語のような夢を貴方に見せてあげられると思うのだが」


「……で、でも、ごめんなさい。その、私同性愛者でもないし、とても天沢さんの彼女になるような人間ではないし、……天沢さんのこと、そういう意味で、好きじゃないから」


「……そうか、残念だ。汐宮先輩は聡明な判断をしていただけると思ったのだがな」


 そう言うと天沢さんはポケットからスマホを出して、なにか操作し始めた。とは言っても、その天沢さんはスマホを持っていない方の片腕だけで私の上に覆い被さっていて、その腕力に私は驚くしかなかった。すっかり日も暮れた暗い生徒会室で、スマホを操作する音だけが響いている。


「あ、あの、天沢さん。今、一体何を……?」


「今から私のクラスと生徒会、非公式ファンクラブのグループラインに「汐宮先輩が私をこっぴどく振った」と一斉送信しようとしているところだ」


「うわわわあああ、ちょ、ちょっと待ってぇ……!」


 私はあまりの驚きに、天沢さんのスマホを取り上げてしまった。

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