novel.12 二人で居残り作業

 1年生の数人は「本物の天沢さん初めて会った!本当に生徒会に所属してるんだ」なんて言って、生徒会室から出ていった。私は唖然としてその光景を見ていた。すると天沢さんは静かに生徒会室の扉を閉めて、私の前に近寄ってきた。


「先日はお世話になったな、汐宮先輩」


「いえいえ、そんなこと。それより、あの、なんであの1年生の子達帰したの……?」


「ああ、実は私は今日部活だったのだが、顧問の先生が急遽お休みしてしまってな。そしたら先輩が生徒会の手伝いに行ってもいい、と言うので言葉に甘えてきたのだ。仕事は私が代わるので、さっきの子たちはもう帰って良いだろう?」


 天沢さんのぐうの音も出ない説明に、私は思わず頷いてしまっていた。天沢さんはそれを確認すると、さっきの子達が座っていた場所に座りペンを持ち始めた。


「この続きを、すればいいのかな?」


「あ、うん。やり方わかる?」


「何度かしているので大丈夫だ。何かわからないことがあったら聞くよ」


「う、うん。わかった」


 私はそう言って渋々作業を再開した。別に仕事は天沢さんが代わってくれているわけだし、仕事をしてくれるなら別に誰でもよかったので私は自分の仕事を再開した。




 生徒会室にペンが走る音と紙をめくる音だけがしていた。私と天沢さんは静かに作業に取り組んでいた。特に何が起きるわけでもなく、ただ静かに時間は過ぎていく。天沢さんはそこにちゃんといるのに、存在感を感じさせないような雰囲気があって、とても作業がしやすかった。そんなことをしている間に時計は5時を回り、私の作業はほとんど片付いていた。私は重い腰を持ち上げて、さっきの段ボールを適当な場所に戻した。明日先生にでも元の場所に直してもらおうと思ったからだ。ちょうどその時、後ろから声をかけられた。


「汐宮先輩、今日の仕事はおしまいか?」


 振り返ると、天沢さんが私を見ていた。


「うん。切りのいいところまで来たから、今日はもうおしまい。また明日に回すよ。天沢さんももう終わっていいよ?」


 私がそう言うと、天沢さんは書類を持って私の隣に来た。


「こんな感じで大丈夫だろうか?」


 そう言って手渡された紙を、私は受け取った。


「……うん、うん。すごい、完璧だよ。よくできてる。これなら文句なしだよ!」


 私が天沢さんにそう告げると、天沢さんは安心したように「良かった」と呟いた。私は書類を受け取って、天沢さんから離れた。


「まだ春だから5時になると暗いね。よし、片付けもほとんどないし帰ろうか」


 私が書類をファイルに直しながら天沢さんにそう声をかけると、何故か返事が返ってこなくて私は鞄に物を入れるのをやめて、後ろを振り向いた。


 その振り向いたすぐ先、私の真後ろに天沢さんが立って、私を見下ろしていた。


「……あ、天さ、」


「汐宮先輩」

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