novel.11 登場は颯爽に

 月曜日、私はわくわくした気持ちで学校に登校した。その原因は何と言っても天沢さんが選んでくれた百合ラノベのおかげだった。なんといってもそのジャンルの幅広さと胸キュン要素で言ったら、最高の一言に尽きてしまう。私は是非天沢さんに改めてお礼を、と思い学校に向かったのだが、天沢さんは今日も元気に女の子(非公式ファンクラブ)の子たちに囲まれていたため、お礼を告げるのは諦めた。


 6時間の授業を終わらせ、生徒会室に向かう。うちの学校の生徒会制度は少し特殊で、新入生の中でもいい成績を中学で残してきている人が生徒会に4月から選ばれて入る、という制度がある。天沢さんもその選別を終えて入ってきた1人。天沢さんは陸上の功績で生徒会に入ってきている。後々にはスポーツ関係の役割を任されることだろう。そんなことを考えながら私は生徒会室で、来月の部活動紹介の準備をしていた。部活動紹介は新入生・帰宅部に部活に興味を持ってもらえる唯一の機会だ。学校としても部活に入っている人数が多い方が印象がいいらしい。まぁ、帰宅部の私は何とも言えないのだけれど。生徒会で頑張っているので許してほしいところではある。でも、どの部活動も新入生に見せる出し物を一生懸命考えているので、私はそこをサポートしたいと思うのだ。部活動の出し物を考える、ということは部活に入っている生徒会役員はみんなそっちに行ってしまっている。1年生もまだ仕事に慣れていないので、1時間ほどで帰すように指示されている。そんなわけで私は数人の1年生と部活動紹介の仕事をしていた。


「うん、ここはこれでいいよ」


「そうそう、じゃあさっきのをここに書いて」


 1年生に仕事を教えるのは緊張するが、やりがいがあって楽しい。私は1年生の仕事の面倒を見つつ、自分の仕事をこなしていた。そうしてしばらく書き仕事をしている時、資料が足りないことに気が付いた。


(あれ、ここの部分、去年の資料見ないとわかんないかもな。確か棚の段ボールに入ってるはずだよね)


 私は生徒会室の積みあがった段ボールから、去年の資料を探した。目線を上にやったらすぐ見つかったが、私の身長ではギリギリ届くかどうかだった。私は腕を伸ばして、段ボールに手を伸ばした。


(んー、もう少しで届きそう……)


 そうしてさらに手を伸ばした時だった。


 上から白い手がすっと伸びてきて、私が探していた段ボールを容易く取って見せた。


「あ、あれ……?」


「危ないぞ、汐宮先輩」


 振り向くと、そこには天沢さんがにこやかに立って笑っていた。


「あ、天沢さん……」


 天沢さんは「この段ボールでいいんですよね」というと、私の席まで段ボールを運んでくれた。そうしてまだ仕事をしていた1年生の子に、


「私が代わろう、お疲れ様」


 と、言ってあっさり1年生の子たちを帰らせてしまった。

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