novel.10 仲良くなった気分

 帰宅して部屋に上がろうとした時、リビングから弟の深玖みくに声をかけられた。


「姉ちゃん、おかえりぃ~」


「ただいま」


 リビングの机には参考書やら宿題が散乱していた。


「僕も着いて行くって言ったのに!」


「いいよ、別に。それより宿題はちゃんとやってるの?早く済ませておかないと日曜日が大変だよ」


「ちぇ、はーい」


 深玖は私より1個下の弟で、私とは別の共学校に通っている。私が女子高に入学したのは深玖が原因で、自分で言うのもなんだけれど深玖はお姉ちゃん大好きっ子。中学時代は学校でもずっとついてきて困ったものだった。それでは深玖の為にならないと思い、私は女子高に入学した。深玖は残念がっていたけれど、せっかく共学に入ったのだし、深玖も16歳なんだから彼女ぐらい作ればいいのに、と思ったりもするのだが……まぁ、その話はいいとして。


 私は自分の部屋にあがると、荷物を机に置いてベットに座った。そうして鞄からさっきのナプキン取り出す。その番号を見て少し迷ったが、別れてからもう1時間も経っているし、さすがに家だろうと思い、私は自分のスマホにその携帯番号を打った。3コールほどして、電話先の相手はすぐに出た。


「はい、もしもし、天沢ですが」


 私は少し緊張する手を抑えながら、口を開いた。


「あ、もしもし、天沢さん?私、汐宮だけど」


 そう言うと、天沢さんはすぐに声色を変えた。


「ああ、汐宮先輩か。わざわざ連絡ありがとう」


「いえいえ、こちらこそ今日はありがとう。本を選んでもらったのに、お茶までつき合わせちゃって……」


「いや、楽しかったから気にしないでくれ。私の方こそ今日はごちそうさまでした。また何かお礼を……」


「ええ、そんな、いいよ!それに今日は本を選んでくれたお礼にお茶をおごっただけだから、天沢さんが何かお返ししちゃったら、私またお返ししなくちゃいけなくなって永遠ループになっちゃうから!」


「確かに、それはそうだな」


「うん、だから今日は私の気持ちだけ受け取ってください」


「……わかった、じゃあそれは生徒会の仕事でお返しするとしよう」


「生徒会?」


「ああ、最近汐宮先輩が仕事に精を出していると聞いてな。何か大変な仕事があったらいつでも言ってくれ。すぐにお手伝いしよう」


「……それなら助かるかも。ありがとう、天沢さん」


「いや、こちらこそだ」


 そう言って私は天沢さんとの電話を切った。なんかたった一日ですごく仲良くなったような気がしたけれど、それもきっと天沢さんからしたら普通のことなんだろうから、変な期待をしてしまいそうになった自分を恥じた。


「さ、天沢さんが選んでくれた百合ラノベ、読むか!」

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