novel.7 いつか見たあなたの瞳に
そんなわけで私と天沢さんは本屋を出て、手ごろな近くのカフェに入った。窓側の席を選び、天沢さんにメニュー表を手渡す。
「はい、今日は私のおごりだからなんでも好きなものを頼んでいいからね」
天沢さんはメニュー表を受け取ってしばらく私の顔を見た後、
「では、遠慮なく」
と言って、メニュー表を開いた。私はテーブルの上に置かれていた小さなメニュー表に書かれていたものを選んだ。天沢さんも何を頼むか決めたようだったので、私は店員さんに注文して、商品が来るのを待った。
さて、その商品が来るまでの間、何を話そうか私は頭を悩ませた。なんて言ったって相手は学園の王子様こと天沢さん。残念ながら天沢さんと私の共通点は生徒会だけで、その生徒会でもろくに話したことがないので、今ここで話す内容なんでもっとないに決まっていた。しかも私が知る天沢さんの情報は今のところ「百合ラノベが好き」の一本だ。この一本で勝負するか……?といううかこの話題でみんなに言いふらさないで、というところまで持っていけるか……?いや、考えろ私。
そうして、しばらくの無言の後、私は口を開いた。
「あの、天沢さん」
「ん?なんだろうか、先輩」
「……いつも生徒会お疲れ様。部活と両立しているみたいだけれど、毎日忙しくはない?」
「……いや、生徒会も部活も私が好きでやっていることだからな。苦ではない」
「そ、そうなんだ、すごいね」
「忙しいのは汐宮先輩の方こそ、じゃないか?」
「へ?わ、私?」
「この前、1年の子の仕事を請け負っていただろう?あなたの仕事ではないのに」
「……うん、あ、あー?確かにそんなこともあったような……」
「……汐宮先輩はご自身のことには無頓着なのだな」
天沢さんがそう言った時、タイミングよく飲み物が運ばれてきて、天沢さんは「いただきます」と丁寧に言ってから、飲み物に口を付けた。私はそれをぼんやりと見ていた、いや、考えていた。天沢さんの言葉を。
(自分に無頓着、なのかな……?私って)
またお互いに沈黙が続く。せっかく投げかけた話題もあっさりと消え去ってしまった。だけど数分して、天沢さんは飲み物から口を離し、私を見た。
「だから、声をかけてしまったんだ」
「……声?」
「いつも、いつどこで見ても真面目でいる汐宮先輩がラノベを、しかも百合を借りていた時、驚いたんだ。汐宮先輩は人や学校のことになんかまったく興味がないのかと思っていたからな」
「私、天沢さんにそんな風に思われていたんだね……」
「私だけではない。他の生徒も、皆あなたをそう思っていると思う。でも今日ここで会って、私は確信したよ。汐宮先輩は世界に興味がないんじゃないんだってね」
そう言った天沢さんの瞳は、いつか廊下で人に囲まれていた天沢さんと同じように、キラキラと輝いていた。
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