novel.6 口止め作戦はお茶で
「汐宮先輩、少し私と話してほしい」
「……へ?」
「……いや、なんでもない。それよりこれはどうかな、この作品はなかなか初心者にも読みやすい内容だと思うが……」
「あ、うん」
気のせいかな、今、天沢さんが何か言ったような気がした。いや、気のせいか、私の思い過ごしだ。でもまさか天沢さんとこんなところで話せるとは思ってもみなかった。なんだって先述した通り、天沢さんは学園の王子様的存在で私とは縁もゆかりもない存在だから。私も彼女に特に興味があるわけではないし、彼女だってきっとそれは同じことだろうと思う。でももしかしたら、こんな風に今日ここで出会ったのも何かの縁かもれない。
「何冊ほど買う予定なんだ?」
「んー、5冊から多くても10冊かなぁ」
「そんなに買う予定なのか。だいぶはまり込んでいるようで何よりだ」
「え、あ、そうかな……」
「いやいや、責めているわけではないんだ。ただ意外、と言えばいいのかな。汐宮先輩はもっとあっさりしている方なのかと思っていた」
「あっさり……」
「品行方正、が似合う先輩が百合好きだと知ったら誰だって驚くと思うがな」
そう言って天沢さんは私に何冊かの本を渡した。私は何も言えずその本を受け取る。天沢さんはそれを見て嬉しそうに頷いた。
「それが私のおすすめの本だ。気に入ったらぜひ買って見てくれ。では私はこれで」
「え、もう、帰るの?」
「まぁな、私が探し求めていた新刊はなかったし今日は帰ることにするよ。では汐宮先輩、また学校で」
そう言って帰ろうとした天沢さんの手を私は勢いで掴んでいた。私も、天沢さんも、驚いた顔をしていた。
「……あの、汐宮先輩?」
「あ、あ、えっと……」
私は天沢さんの手を掴んだはいいものの、なんて言えばいいのか分からなくて、言葉に悩んだ。まさか馬鹿正直に「どうか方々に百合好きだというのはやめてください」と頼み込むわけにもいかない。でもここで帰したらそれを伝えるチャンスもなくなる。駄目だ、そっちの方がまずい。ならここは無難に本を選んでくれたお礼をする、という
「あ、あの、天沢さん。良かったら本を選んでくれたお礼をさせてくれないかな?」
「お礼?別にそんなことは……」
「いやいや、せっかく選んでもらって何もお礼しないのは心苦しいからさ。どう?お茶でも一緒に」
私がそう言うと天沢さんは少し考えた後に、
「……わかった、汐宮先輩がそう言うなら喜んでご一緒しよう」
と言ってくれた。私はとりあえず帰さないで済んだ、と安心して胸を撫でおろした。
「そう言う訳なので、そろそろ腕を離してもらってもいいか?汐宮先輩」
「あ、ごめんなさい!」
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